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遠足も運動会も“断固拒否”…自閉症児の「行事」参加に、親はどう寄り添うべきか

行事への参加を“断固拒否”する子どもと、皆と同じことを経験させたい親。しかし、何もかも一緒のことを経験させるのは本当にいいことなのか……筆者が投げかける問いとは。

世界地図パズルに夢中になる息子(筆者提供)
世界地図パズルに夢中になる息子(筆者提供)

 自閉症の息子を持つ私が聞いた、ある親子の話です。その子どもも自閉症児でした。

 保育園で遠足行事があったときのこと。親子遠足ではなかったため、保護者はもちろんついていかず、園児と職員だけで出かけることになっていました。その子は音楽発表会、誕生会、節分行事など、普段と違う保育の流れになるとき、園内でパニックを起こして自傷していました。そのため、遠足も、子どもが不安定になることが予想されました。

 親御さんは「子どもがパニックを起こさず、少しでも楽しめるように」「お友達や先生たちに迷惑がかからないように」と思い、事前に園から当日のタイムスケジュールが書いてある行程表を受け取り、何度も子どもに説明。さらに、紙面だけでは不足と考え、週末に親子で下見にも出かけました。行程表と同じ電車に乗り、同じ場所でお弁当を食べる……そんな涙ぐましい努力をしていたのです。

 こうしたことを経て、当日子どもが楽しく参加できるのならば、事前練習をするのも一つの方法かもしれません。しかし、子どもの状態があまりにも悪く、断固拒否している場合は「よかれと思って参加させる」ことがかえって子どもを苦しめることにはならないでしょうか。

「少しでも皆と同じことを経験させたい」。そう思うのは当然の親心です。でも、何もかも一緒のことを経験させることが、果たしてよいことなのでしょうか。

 また一方で、親が「遠足を嫌がるので休ませたい」と伝えても、幼稚園や保育園の先生に「少しでも参加してくださいね」「参加するときっと楽しめますよ」と言われてしまうことがあります。先生たちもある意味、自閉症の子の気持ちを分かっていないのではないでしょうか。

子どもに寄り添う“応援団長”に

 公園に連れて行っても友達の輪に入らず、地面の落ち葉を並べるだけ。石ころを縦に並べるだけ。友達が家に遊びに来ても、普段遊んでいる国旗カードや世界地図パズルに夢中になって、友達と遊ばない――。

 そんな、ポツンと孤立しているわが子の姿を見て切なくなってしまい、「何とかそれをやめさせたい」「お友達と一緒に遊んで楽しんでほしい」と思うのが親の気持ちです。

 生まれつき、想像力の欠如がある「自閉症」という障害。石ころや葉っぱは、自分の思った通りに並べると、その位置でとどまってくれています。しかし、人間の場合、相手が予測のつかない行動を取ることがあるために、見通しを立てることができず、少なくとも私の息子にとっては不安材料となってしまうようでした。

 運動会などの行事も、予測がつかない事態が起こる場です。いつもと全く違う保育の流れになるからです。

 保育園、幼稚園の場合は園庭が狭く、運動会を園庭以外の運動場で行う園もあります。多くの観客が集う状況、耳に入ってくるピストルの音や声援などの聞き慣れない音、通常の時間割と全く違う流れで進むプログラム……もし、子どもに聴覚過敏があれば、ピストルの音、スピーカーから鳴り響く音楽やアナウンス、観客の声援が苦痛になるかもしれません。

 私の息子も、幼い頃は運動会を嫌がっていました。でも、特別支援学校高等部3年生のときは応援団長になって、運動会を思い切り楽しんでいる様子でした。年齢を重ねると、幼い頃から必死に訓練をしなくても、本人の力で自然にできるようになることもたくさんあると思います。

 親は、子どもに寄り添う“応援団長”になって「無理にお友達と同じことをする必要はない」「そのままのあなたでいい」という姿勢を、日頃から言葉や態度で示すことが大切なのだと、しみじみ思います。

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立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

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