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「重要指名手配犯」を名乗る男が死亡…名乗り出たら“刑が減軽”されるのか? 弁護士が解説

情報提供を呼びかけるポスターなどで見かける「重要指名手配」。これは通常の「指名手配」とはどう違うのでしょうか。弁護士に詳しく聞きました。

警視庁前に掲示された桐島聡容疑者(右手前)の指名手配のポスター(2024年1月、時事)
警視庁前に掲示された桐島聡容疑者(右手前)の指名手配のポスター(2024年1月、時事)

 1月25日、神奈川県内の病院に入院していた男性が、1970年代に発生した連続企業爆破事件で重要指名手配されている「桐島聡」容疑者を名乗ったことが報道されました。報道によると、桐島容疑者を名乗る男性は末期の胃がんで治療を受けていましたが、同月29日に入院先の病院で死亡が確認されたということです。

 同容疑者は、駅や交番などに貼られた「重要指名手配犯」の情報提供を呼びかけるポスターで氏名や顔が知られていますが、この「重要指名手配」とは、通常の指名手配とは何がどう違うのでしょうか。また、もし容疑者本人だと確認できた場合、自ら名乗り出たことで刑が減軽される可能性はあったのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

特に重大な犯罪の容疑者を指定

Q.そもそも、通常の「指名手配」とは何ですか。

佐藤さん「『指名手配』とは、逮捕状が出ている容疑者がどこにいるのか分からないときに、事件捜査を担当する警察署などから、全国の警察に、容疑者の特徴や事件内容など、容疑者を逮捕するのに必要な事項を伝え、容疑者の逮捕を依頼し、逮捕後身柄の引き渡しを要求する手配です(犯罪捜査規範31条)。つまり指名手配は、逮捕状が出ており、容疑者の所在不明の場合に行われます。

殺人、強盗などの凶悪事件だけでなく、暴行、傷害、窃盗、詐欺、横領…といったさまざまな事件を起こした後、逃亡を続けている容疑者について指名手配がなされ、指名手配されると、全国の警察が連携しながら、容疑者の追跡捜査を行うことになります。また、容疑者のポスターを掲示するなどして、国民から広く情報提供を求めます」

Q.一方、「重要指名手配」とは何ですか。

佐藤さん「『重要指名手配』とは、指名手配された容疑者のうち、特に重大な犯罪の容疑者を指定し、捜査活動を強化しているものをいいます。重要指名手配には、(1)警察庁指定重要指名手配(2)都道府県警察指定重要指名手配―の2つがあります。

【(1)警察庁指定重要指名手配】

警察庁が、凶悪犯罪または広域犯罪の指名手配された容疑者のうち、全国警察を挙げて捜査する必要性の高い者を、指名手配捜査強化月間にあわせて指定するものです。

【(2)都道府県警察指定重要指名手配】

都道府県警察が、凶悪事件、悪質・常習的な窃盗、詐欺などの指名手配された容疑者のうち、組織的に捜査する必要性が高い者を、指名手配捜査強化月間にあわせて指定するものです。

他にも『特別手配』というものがあり、これは警察庁が、治安に重大な影響を及ぼした指名手配された容疑者で、全国的に強力な組織捜査を行う必要がある場合に指定されます。

なお、(1)が行われると、警察庁のウェブサイトで、容疑者の氏名、年齢、身長、顔写真、容疑がかけられた罪名を公開されます」

Q.今回のように、「自分が重要指名手配犯だ」と名乗る人物が現れた場合、あるいは重要指名手配中の容疑者が「自首」「出頭」した場合、どうなることが考えられますか。刑が減軽される可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「『自首』とは、犯行や犯人が発覚する前に、犯人が自ら捜査機関に犯罪を行った旨を申し出て、その処分に委ねることです。自首が成立するためには、犯行または犯人が捜査機関に発覚する“前”であることが必要です。

重要指名手配されている場合、捜査機関は、既に犯行および容疑者が誰であるか分かっており、容疑者の所在だけが分からない状態なので、容疑者が自ら名乗り出たとしても、自首は成立しません。自首すると、法律に基づき、刑が減軽される可能性がありますが(刑法42条)、重要指名手配された容疑者が名乗り出たとしても自首にあたらないため、刑が減軽されることはありません。

重要指名手配中の容疑者が自ら名乗り出るのは、いわゆる『出頭』にあたるでしょう。刑事事件のニュースなどで使われる『出頭』とは、一般に、捜査機関が犯行および容疑者を把握している段階で、容疑者が警察などに出向き、自らの罪を認めたことを指しています。

出頭の場合には、刑の減軽に関する法律の定めはありませんが、反省を示す情状の一つとして考慮され、量刑に影響が出る可能性はあります」

Q.重要指名手配犯(と思われる人物)が身柄確保後に死亡した場合、どのような対応となることが考えられますか。

佐藤さん「容疑者が死亡した場合、刑事裁判にかけることはできません(刑事訴訟法339条1項4号)。そのため、不起訴処分になります。

ただし、捜査が全く行われなくなるわけではありません。真相究明のため、警察は、犯行現場の実況見分を行ったり、事件関係者から事情聴取を行ったり、凶器などの証拠を確保したりと必要な捜査を行い、事件を検察官に送致(いわゆる『書類送検』)するのが原則です」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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