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生徒1人が本を年142冊も借りる小学校 「素晴らしい」「管理は嫌」と賛否両論で…どんな取り組み?

児童1人が、年間142冊もの本を図書館から借りる小学校が話題となっています。

彦郷小学校の図書室
彦郷小学校の図書室

 若者の「活字離れ」「本離れ」が叫ばれる中、埼玉県のある小学校の取り組みがネット上で話題となっています。児童文学作家による講演や、ボランティアによる読み聞かせ、読書のための時間の設定などを行い、児童1人が図書室で借りる本が年間142冊(平均、2017年)に上っているからです。

 これについて、SNS上では「素晴らしい取り組み」と評価する声が上がる一方、「読書を学校に管理されるのは嫌」と否定的な意見もあり、賛否両論が飛び交っています。読書促進の取り組みを取材しました。

本に触れる機会増やし、図書室利用促す

 話題となっているのは、三郷(みさと)市立彦郷(ひこさと)小学校です。JR新三郷駅から西にバスで15分ほどの場所にあります。鈴木勉校長によると、同校は、国の機関の委嘱を受けたのをきっかけに2006年度から読書活動に力を入れ始め、2010年から入学時にバーコード付きの図書カードを児童に配り、本を貸し出しています。同年には文部科学大臣表彰も受けました。

 三郷市は2013年3月、読書活動のさらなる推進などを目的に市議会の議決を経て「日本一の読書のまち」を宣言しており、読書活動に積極的な街として知られていますが、特に同校は熱心だそうです。

 鈴木校長に話を聞きました。

Q.なぜ児童が年間142冊もの本を読むのでしょうか。

鈴木校長「いくつか並行して行っている取り組みがあります。私が校長に就任した翌年の2017年に『もくもく読書』という、児童が本を読むための時間を設けました。時間帯は月曜~金曜の午後1時50分から10分間です。読書の習慣を身に付けさせるために実施しました。

また、毎週金曜朝、ボランティアによる本の読み聞かせを全クラスで実施しています。年1回、児童文学作家の講演会も実施しており、本の楽しさ、物語の裏話などを聞かせることで児童に『本を読みたい』という意欲を持ってもらうようにしています。講演会の前後には、図書室に講演者の著書コーナーを設置しています。

『読書ビンゴ』という取り組みもあります。ビンゴの升目をイメージした用紙に『科学』『三郷市お薦めの本』『好きな本』などのジャンルを書き、読んだ本に応じて色を塗りつぶします。ビンゴになったら、図書委員が作成したしおりをプレゼントしています。

その他、身近な人に本を紹介する『読書ゆうびん』や、クラスの人に読んでほしい本をプレゼンする『ビブリオバトル』などの取り組みも行っています」

Q.読書の時間はどんな本を読んでもいいのですか。

鈴木校長「漫画については図書室に置いている学習本以外はNGですが、その他のジャンルについては制限を設けていません。図書室の本だけでなく、自宅から本を持ってくる児童もいます」

Q.図書室へ通じる通路がきれいに飾り付けされていますが、なぜでしょうか。

鈴木校長「この通路を『ブックストリート』と呼んでいます。図書室が教室から離れた場所にあるため、できるだけ積極的に使ってもらう目的で始めました。飾り付けのほかに、壁にお勧めの本を置いたり、読み聞かせで使った本の表紙のコピーを張ったりして、児童の興味を引くようにレイアウトしています。

また、週2回、司書が学校に来るのですが、その日は『休み時間に図書室に行ったら』と担任が勧めています。本に触れる機会を増やすために、国語や総合学習の授業を図書室で行うこともあります」

Q.児童によって、借りる本の冊数にばらつきがあるのでは。

鈴木校長「月1回、児童が何冊本を借りたのかという統計資料を各担任に配布しています。その資料を元に、本を借りる冊数が少ない児童に『図書室で何冊か本を借りてくれば』『もっと頑張ろうね』と声をかけています。市内の教員や司書がお勧めの本をまとめたリスト『三郷おすすめの本100冊』を紹介することもあります。

冊数を意識しているのは『量から質に』ということが念頭にあるためです。子どもは、本を借りるだけでほとんど読まない可能性もありますが、本に触れる機会が多ければ多いほど、自分にとって最適な本に出会える確率が高くなると期待しています」

Q.「強制されている」という意識が児童に芽生える可能性はありませんか。

鈴木校長「担任から声をかけられると素直に本を借りてきます。声をかけられることで児童は励まされるので、読書に限らず、一人一人に声をかけるのは大事だと考えています。また図書室は、休み時間になるとたくさんの児童がやってきます。『読め』と言われたからと嫌々読んでいる子はあまりいないと考えています」

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