オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

「体のゆがみで健康リスク増大」は本当? 対処法はある? 整形外科医が解説

ゆがみの矯正は可能?

Q.もし体にゆがみが生じていた場合、矯正することは可能なのでしょうか。

歌島さん「側彎症のような骨格の変形と、不良姿勢の2つの大きな違いは、改善の難易度です。骨格の変形の方が改善の難易度が高いので、不良姿勢よりも重症だと言えるでしょう。

極論すると、骨格の変形を治すには手術しかありません。側彎症の手術は、積み木のように連なっている背骨1つ1つに強靭なネジを入れた後、それぞれのネジを金属で連結していき、できる限り真っすぐに矯正していきます。とても強い金属を使うことで、何とか変形した配列を真っすぐに近づけることができます。そのため、整体で側彎症を治すのは困難です。

側彎症は、手術以外にも大事な治療があります。それは変形が進まないようにするということです。先述のように、側彎症は、Cobb角が10度以上の場合に診断されると解説しましたが、それが徐々に進行し、一般的に50度を超えてくると手術が必要だといわれています。

そのような状態に悪化させないために、『装具療法』と呼ばれるエビデンスのある治療があります。これは、背骨を真っすぐの状態に近づける特殊な矯正装具を使う治療法で、研究では症状の進行を防ぐ効果があることが明らかになっています(※4)。しかし、この研究によると、装具を少なくとも1日16~18時間ほど装着する必要があると示されています。

側彎症などの骨格の変形に対して、改善の難易度が一気に下がるのが不良姿勢です。多くの不良姿勢は正しい姿勢を理解し、意識を変えるだけで治ってしまうからです。もちろん、それは無意識の習慣でもあるため、スポーツの練習と同様、反復練習で無意識に落とし込む必要があるわけです。

このように考えると、徒手療法の重要性はそこまで高くないことが分かりますが、大事なのは、『徒手療法は存在意義がまったくない』ということではなく、『治療時に徒手療法は必須とはいえない』という点です。

不良姿勢がどういうもので、正しい姿勢がどういうものか、そして、その意識付けの指導やフィードバックなどを中心に治療を構成する専門家は、とても頼りになります。ただ、多くの場合、患者をベッドに寝かせた状態で何らかの徒手療法を行うことに終止するケースが多いので、私は残念に思っています」

参考文献
(※1)* Masaki Ueno et al.J Orthop Sci.2011
A 5-year epidemiological study on the prevalence rate of idiopathic scoliosis in Tokyo: school screening of more than 250,000 children
(※2)* K Pehrsson et al.Spine(Phila Pa 1976).1992
Long-term follow-up of patients with untreated scoliosis. A study of mortality, causes of death, and symptoms
(※3)* Clark EM, et al.Spine(Phila Pa 1976).2016
The Impact of Small Spinal Curves in Adolescents Who Have Not Presented to Secondary Care: A Population-Based Cohort Study
(※4)* Stuart L Weinstein et al.N Engl J Med.2013
Effects of bracing in adolescents with idiopathic scoliosis
(※5)* Kota Watanabe et al.J Bone Joint Surg Am.2017
Physical Activities and Lifestyle Factors Related to Adolescent Idiopathic Scoliosis
(※6)* Steffens D et al.Arthritis Care Res.2015
What triggers an episode of acute low back pain? A case-crossover study

(オトナンサー編集部)

1 2

歌島大輔(うたしま・だいすけ)

医師(整形外科医)

フリーランス整形外科医として、常に磨き上げ続けている肩関節鏡手術スキルを駆使し、五十肩・腱板断裂などを対象に治療を行っている。また、情報発信ドクターとしての顔も持ち、「正しい医学情報をわかりやすく」をモットーに、情報発信・オンライン教育事業を積極的に展開している。公式YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@d.utashima)。

コメント