「一緒にいて楽」は“諸刃の剣”? 43歳女性“幸せの押しつけ”で陥った落とし穴
「一緒にいて楽だったから」。世の夫婦から結婚理由としてよく聞かれるフレーズですが、「一緒にいて楽」と思っているのは、実はあなただけかもしれません。

結婚理由として「一緒にいて楽だったから」と答える夫婦は多くいます。しかし、その言葉は“諸刃(もろは)の剣”。言っている方と言われている方の気持ちはとてつもなくかけ離れている場合があります。「君はそう思っているかもしんないけどさ」というケースです。
結婚条件にも挙げられる「一緒にいて楽」というワードは危険をはらんでいることもあるようです。「恋人・夫婦仲相談所」を運営する筆者が紹介します。
「結婚相手に求める条件」3位に
内閣府が20〜29歳の男女7000人を対象に行った「結婚・家族形成に関する意識調査」(2014年度)によると、結婚を希望する男女が「結婚相手に求める条件」の1位は「価値観が近いこと」。次いで、2位に「一緒にいて楽しいこと」、そして3位に「一緒にいて気を使わないこと」がランクインしています。これは文字通り“一緒にいて楽”ということです。
最近でいうと2021年12月、一般社団法人日本リレーションシップ協会が25歳以上50歳未満の女性(既婚・未婚)を対象に実施した「結婚相手に求める条件とパートナーの年収」に関する調査によると、「結婚相手に求めるもの」1位は「経済力」、2位は「価値観」、3位は「人柄」でした。2位の「価値観」と3位の「人柄」は、“一緒にいて楽”というニュアンスを含んでいます。
ここで注意しなければいけないのは、自分が「楽だから」と思っても、相手が同じように思っているわけではないという事実です。「私がそうなのだから相手もそうだろう」という考え方は、恋をしているときは特に強くなりがちです。「恋は盲目」といいますが、まさにそうなってしまった結果、痛い目に遭った人のお話があります。
自分視点の幸せで結婚生活が破綻した女性
美由紀さん(43歳、仮名)・伸行さん(43歳、同)夫婦の出会いは、伸行さんの一目ぼれでした。美由紀さんには婚約中の彼がいたので、伸行さんの告白は断り続けていました。しかし伸行さんは諦めません。
とはいえ、美由紀さんは婚約していた5歳年上の起業家と結婚。そのとき、伸行さんは温かく祝福したものの、「美由紀を好きな気持ちに変わりはないから、友達関係を続けてほしい」と言います。友達なら…とそのまま付き合いを継続。
美由紀さんが結婚した夫は起業したばかりで、とても多忙でした。そして、妻を下に見るようなところがありました。そんな夫の愚痴を、美由紀さんは伸行さんに話し、いつも彼は優しく聞いてくれていました。
いつしか美由紀さんは家で夫といるときも、伸行さんのことを考えるように。夫は料理を作っても反応が薄い。今日一日の出来事を話そうとしても相手にしてくれない。極めつけは、結婚してからほとんど性交渉がないこと。美由紀さんは子どもさえいれば救われると考えて、夫に「子どもが欲しい」と訴えますが、「疲れているから」と相手にされません。そのうち、夫は会社に泊まるようになり、ほとんど家に帰ってこなくなってしまいました。
「自分の存在は、夫にとって何なんだろう?」と美由紀さんは苦しみます。そして、「伸行さんとだったらこうじゃなかった…」と後悔するように。
ついに、美由紀さんは伸行さんに「私が離婚したら結婚してくれる?」と聞きます。伸行さんはもちろんOK。美由紀さんが夫に離婚を申し出ると、結婚生活がいいものだと思えなかった夫は快諾。慰謝料などは一切なく離婚が決まります。そのときの夫側の言い分は、「監視されているようで休まらない」でした。
そして6カ月後、伸行さんと美由紀さんは結婚。新婚生活は楽しいものでした。美由紀さんは毎日、伸行さん好みの料理を作り、手の込んだお弁当を持たせました。ワイシャツも毎日アイロンをかけ、土日もずっと伸行さんと一緒。それが美由紀さんにとって幸せで、毎日が前の結婚と比べて“楽”でした。
ところがある日、伸行さんから「一緒にいるのがしんどい」とまさかの告白。美由紀さんは驚きました。一緒にいてお互い楽だし、幸せいっぱいと信じていたのに一体何が起こったのか。「好きな人ができたの?」と伸行さんを責めます。しかし、伸行さんの答えは違いました。
「一緒にいることに疲れてしまった。美由紀はいつも楽しそうで、俺もそれが幸せだと思っていたけど。そうじゃないんだよ。いつも一方的にされるいろいろなことに、自分が無理して喜んでいることに気付いた。息苦しい。これ以上続けられない」
美由紀さんは涙が止まりません。合わせるように努力するから思い直してほしいと訴えます。
「夫は、『独りの時間が欲しかった。たまには手抜き料理やB級外食で息抜きできるようなパートナーがよかった。家事の完璧さを、これ見よがしに押しつけられている気がした』と。私の意見は、『私があなたをご機嫌にしてあげている』という押しつけ精神が垣間見えたのかな」。“ほら、幸せでしょ”というドヤ顔です。
このようなケースは珍しいことですが、人の心は分かりません。「自分が幸せだから相手も幸せだと思っていた」という落とし穴に落ちてしまったのでしょう。
パートナーとは本音で対話して、「結婚生活の棚卸し会議」を定期的に開催するのがよいのではと思います。すれ違いを放置するとどんどん溝が広がるので、狭いうちに埋めていく作業が大事です。
(「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美)
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