「迷惑をかけてはいけません」…親の言葉で「SOSを出せない子」に? わが子の“自立の形”を考える
「人に迷惑をかけてはいけない」。わが子にこの言葉を繰り返す親は少なくありません。しかしこれが、子どもの「SOSを出す力」にブレーキをかけてしまう恐れがあると筆者は指摘します。
「どんな子どもに育ってほしいですか?」。育児中の親にこう尋ねると、「人に迷惑をかけない子に育ってほしい」「どこへ出しても恥ずかしくない子どもに育ってほしい」「何でも一人でできる子に育ってほしい」という答えがよく返ってきます。
子どもは幼ければ幼いほど、親の手を煩わせる存在です。「迷惑をかけること」と「人に頼ること」は全く別物ですが、子どもはこの両者の違いが分かりません。そのため、「人に迷惑をかけてはいけません」と言い過ぎると、困っているのに誰かを頼れない子になってしまうかもしれません。そんな例を、子育て本著者・講演家である筆者が紹介します。
喉が渇いたことを言えず、熱中症寸前に
ある小学生の話です。暑い夏の日、その子は喉が渇いて、渇いて仕方ありませんでした。しかし、先生はものすごく忙しくしていました。熱中症になる寸前なのに、勇気を出して「先生、お水飲みたい」の一言が言えない子だったのです。
また、いじめを受けているのに、大人に助けを求めたくても「先生に迷惑がかかる」「親に心配をかけたくない」と思い、「ママ助けて」「先生助けて」の一言が言えない子もいました。
喉が渇いたことを伝える、いじめを受けていることを伝える。これらは、大人から見れば「人に迷惑をかけること」ではないのですが、それが分からない子も実際にいます。親は、「人に迷惑をかけない子ども」ではなく、「困ったときは、たとえ人に迷惑をかけても、SOSを出せる子ども」に育てることが大切なのではないでしょうか。助けてもらったら「ありがとう」、迷惑をかけてしまったら「ごめんなさい」と言えるように育てれば、それで十分なのではないでしょうか。
親からインプットされた「迷惑をかけてはいけない」という教えは、困ったことや分からないことにぶつかったとき、「こんなことを聞いて、おかしな人、非常識な人と思われはしないか」「恥ずかしい」と、いらぬブレーキになってしまいかねません。
「人さまに迷惑をかけるなんて、恥ずべきこと」という親の強い思いがあるのは分かりますが、まだ生まれて数年の子どもに、それを要求する必要はないのではないでしょうか。
少年時代に、難病の筋ジストロフィーを患った実在の人物・鹿野靖明さんの生き様を描いた映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」。この作品で、鹿野さんを演じた俳優の大泉洋さんが、女性誌「LEE」ウェブサイトのインタビューでこう語っていました。
「これまで“人に迷惑をかけないで生きる”ことが、唯一のポリシーでしたが、それが大きく揺らいだ。果たしてそれがそんなに大事なことなのか、と。自分一人ではできないことなら、人に助けてもらえばいいのではと。人に頼ることを恐れ過ぎてはいけないとも思うようになりました。何より僕の娘には、人を助けてあげられる人になってほしいと思うようになりましたね」
「お金が分からないので、取ってください」
私の息子は知的障害を伴う自閉症児として育ち、現在22歳になりました。息子が中学生のとき、「一人で買い物ができるように、お金の計算をマスターさせたい」と思い、親として必死になっていました。そんな私に、特別支援学級の担任が言った言葉です。
「大切なのは、誰かに助けを求められること。何でも自分一人の力でできるようにならなくてもいいです。財布を広げて、『僕はお金が分からないので取ってください』と言えば、店の人が助けてくれる。できる人に頼ることも自立の形です」
息子は計算ができません。しかし、一人で買い物をし、切符を買い、外食をすることもできます。なぜできるのか。それは、「僕は計算ができないので、このお財布から取ってください」とお店の人にお願いしているからです。親亡き後のことを考えると、誰かにSOSを出せる勇気を持たせたいので、これを続けさせています。
障害がなくても、人には得意/不得意があるもの。できないときは誰かに頼る力を育てることが大切だと思います。
次のような「親の子育てポリシー」は、裏を返せばこのような意味にも捉えられます。
・「人に迷惑をかけない子」…困ったとき、親以外の誰かにSOSを出せない子
・「どこへ出しても恥ずかしくない子」…自分が他人からどう見られるかを最優先する子
・「我慢ができる子」「弱音を吐かない子」…「つらい、苦しい」と本心を言えない子
・「わがままを言わない子」…自己主張しない子、他人の批判を気にして自分の意見を言わない子
まっとうに見える子育て方針も、一度立ち止まって考え直してみる必要があるのかもしれませんね。
(子育て本著者・講演家 立石美津子)
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