「母親はよくても子には影響あるはず」との声も…「未婚の母」に法的なメリットはある? 弁護士が解説
結婚せずに出産・育児をする「未婚の母」。この選択を法的に見たとき、考えられるメリットとデメリットについて、弁護士が解説します。

結婚をせずに子どもを産み育てる、いわゆる「未婚の母」。芸能界では、歌手の浜崎あゆみさんやタレントの最上もがさんなど、未婚での出産・育児を選択するケースは少なくありませんが、「いろんな家族の形があっていい」「未婚だからこそのメリットもあるのでは」といった肯定的な意見がある一方で、「母親はよくても、子どもには影響があるはず」「デメリットの方が大きいと思うけど…」など、この選択に疑問を抱く人もおり、ネット上では常に賛否が分かれています。
「未婚の母」という選択を法的に見たとき、どのようなメリットとデメリットが考えられるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
「認知」がない限り、法的な父親は不在に
Q.法的に、結婚後に妊娠・出産する場合と、そうでない場合の違いは何でしょうか。
佐藤さん「最も大きく違うのは法的な父子関係です。結婚していようがいまいが、出産することにより、母子関係は明らかです。しかし、父親が誰であるかは必ずしも明らかではありません。
そこで、法は『婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する』(民法772条1項)というルールを定めています。これにより、結婚後に妊娠・出産した場合、『夫が父親』と推定され、戸籍の父親欄には夫の氏名が記載されます。父子関係を争うには、夫が『嫡出否認の訴え』を起こさなければならず(同775条)、この訴えは夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければなりません(同777条)。従って、結婚してから妊娠・出産すると法的な父子関係は早期に安定します。
妊娠してから結婚する、いわゆる『授かり婚』の場合、いつ結婚し、いつ出産したのかにもよりますが、基本的に『婚姻中に妊娠した』とは推定されず、『夫の子である』という推定も働きません(同772条2項)。それでも、この場合も戸籍の父親欄には夫の氏名が記載され、婚姻中に妊娠したケースとそれほど大きな違いはありません。ただし、後に父子関係が問題となった場合、出生から何年たった後でも争い得るといった違いは生じます。
以上が現在の制度なのですが、2022年10月14日、民法改正案が閣議決定されました。そのため、今後は『授かり婚』の場合も『夫の子である』と推定されるようになったり、嫡出否認制度が拡充され、原則出生から3年以内であれば、父親だけでなく母親や子どもも『嫡出否認の訴え』を提起できるようになったりする可能性があります。
これに対し、結婚しないまま出産した場合、戸籍の父親欄は空欄になり、父親による『認知』がない限り、法的な父親は不在となります。認知がなければ、父親には法的な扶養義務がないため、養育費の支払いを法律上の権利に基づいて請求することができず、子どもは父親の法定相続人にもなれません」
Q.では、結婚せずに出産した場合、「父親」は法的にどう決まるのですか。
佐藤さん「先述したことと関連しますが、父親による認知があれば、法的な父子関係が成立します。認知は父親が自らの意思で認知届を提出すれば効力を生じますが、父親が認知しない場合、裁判所の手続きにより、強制的に認知を求めなければなりません。なお、父が死亡して3年経過すると認知の訴えを提起できなくなります(民法787条ただし書き)。このように、結婚しないまま出産すると父子関係が不安定になります」
Q.もし、母親や子どもが認知を求めなかったり、父親が死亡して3年経過するまでの間に認知の訴えを起こさなかったりした場合、法的な父親はずっと決まらないことになるのでしょうか。
佐藤さん「父親が自らの意思で認知せず、母親や子どもも認知を求めなければ、法的な父親はずっと決まらず、戸籍の父親欄も空欄のままです。そして、父親が亡くなり、3年たってしまえば、法的な父親は不在ということになります。ただし、養子縁組によって、実父以外の男性と法的な父子関係を結ぶことは可能です」
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