習近平氏腹心を市民が罵倒、「餓死者」情報…都市封鎖1カ月、中国・上海で今起きていること
大物政治家を罵倒する市民
Q.「餓死者が出た」との情報もあります。情報統制が厳しい中国で、何が起きているのでしょうか。
青樹さん「餓死者の真偽は不明ですが、いつもなら絶対出回らない情報が表に出ているのが、今の上海の状況です。
例えば、李強氏という、習近平国家主席の腹心が上海市トップなのですが、彼が上海の住宅街を視察したとき、住民に罵倒され、その様子を撮影した動画がネット上で出回りました。住宅街のおばちゃんが『食べ物がない。ニンジンとジャガイモとタマネギ2個ずつしか支給されていない!』と叫べば、別の女性が『生きていけない。あなたたちは有罪だ。恥を知れ!』と罵倒。係員に制止されたのです。
かつての中国では、こんなことはあり得ませんでした。一般市民が大物政治家に対して声高に抗議するなどあり得ませんし、その動画が拡散することもあり得ませんでした。中国当局は、政府や地方政府にとって不都合な動画や情報を削除していくのですが、削除が間に合わずに出回る情報が増えてきています。
つい先日も『4月の声』という、上海市民の生の声を集めた動画がネットにアップされました。まさに市民の生の声で、食料不足などの実態を訴えています。封鎖されたオフィスビルで出前された食料を『消毒がまだだから』と廃棄させられた、飼い主が陽性で隔離された後、主人を探して街をさまよっていたペットの犬が殴り殺された、『PCR検査の結果がまだ出ていないから』と自宅のあるマンション街に入れない…など、悲惨としか言いようがない実態が描かれています。この動画が、削除されても、即違うところでアップされる。その後また削除され、また誰かがアップする。平時ならネット警察に捕まるようなことが現実に起きているんですね。これまでの中国では見られなかった現象です。
こういった情報の中には、デマ情報も多いのですが、高齢者の持病が悪化しても病院で受診できず、亡くなる事例が増えているのは事実です。先日も、有名な経済学者が98歳の母親が死亡したことをSNSで明かしました。体調不良だった母親は病院に行ったものの、『受診に必要』だとして、PCR検査の結果を4時間以上待たされ、その間に亡くなったそうです」
Q.中国の「ゼロコロナ政策」は今後も続くのでしょうか。また、上海のロックダウンはどうなるのでしょうか。
青樹さん「ゼロコロナは習近平氏主導の政策で、失敗したら秋の共産党大会で3選されるというプランが崩れてしまうでしょう。ゼロコロナでないと、コロナに勝ったことにならないと見ているので、あくまで続けていくだろうといわれています。
そうした中、中国の感染症対策の第一人者とされる鐘南山医師が『ゼロコロナ政策の継続は困難』との趣旨の論文を発表して、大きな話題となりました。4月8日に行われた大学院のオンライン講義でもその話をして、20万人が視聴し、60万人が『いいね』をしたそうです。中国共産党は焦って、この発言を打ち消しましたが、今後どうなるかを見通すのは難しい状況です。
上海のロックダウンも、感染者が出ていない一部地域では外出許可が出始めたり、一方でまた戻ったりと、先行きは不透明です。
一方で、一部の市民の心に変化が起きています。上海は先ほど述べたように、金融都市、経済都市ですが、『お金をたくさん持っていても意味がない』と思う人が出てきました。21世紀の先進都市で、『物々交換』が増えているのです。グループチャットで『私が持っているのは、コーヒー、ウインナー、ミルクティーのティーバッグ、ベーコン、青菜。今、欲しいのは青唐辛子』といった感じで書き込みがあり、物々交換をする人たちがいます。
これまでは上海人にとって、豪邸や高級車、ブランドバッグが『手に入れたい、ぜいたく品』でした。しかし新型コロナ以降、有名な学校に近い場所に家を買っても、オンライン授業で先生にもクラスメートにも会えない。『家って何?』となります。外出できないので高級車は置きっぱなしで、高い駐車場代だけを払っている。高級バッグは買い物かご代わり。『ぜいたく品が、本当に人生に価値のあることか』と考え直しているのです。
人間関係を見直すきっかけにもなっています。かつてはビジネス上の仲間や、利益のある人との付き合いが重視されていたのが、今回のロックダウンで隣近所との助け合いがなければ生きていけない、ということが分かってきました。上海人にとって180度の人生観の転換が、コロナをきっかけに起きているようです」
(オトナンサー編集部)
コメント