オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

旅館でよく見た、名前入り「歓迎 御一行様」看板、すでに過去のもの?

旅館の玄関先で「歓迎〇〇御一行様」と書かれた看板を以前はよく見ましたが、最近はほとんど見ません。旅館の歓迎看板は、減ってきているのでしょうか。

今では歓迎看板をほとんど見なくなった?
今では歓迎看板をほとんど見なくなった?

 旅館に宿泊するとき、玄関先に「歓迎〇〇御一行様」と書かれた歓迎看板を見たことはないでしょうか。うれしさからか、自分の名前が書かれた看板の前で記念撮影をする人もいるそうです。しかし、自分の名前が書かれることを嫌がる人もおり、以前に比べて歓迎看板を見なくなったようにも思います。旅館の歓迎看板は、減ってきているのでしょうか。ホテルジャーナリストの高岡よしみさんに聞きました。

外国人観光客には不評

Q.旅館が玄関先に出す歓迎看板は、いつごろから掲げられるようになったのでしょうか。

高岡さん「旅館の起源は『宿坊』や『旅籠(はたご)』ですが、昔は予約なしの通りがかりでチェックインすることがほとんどでした。ですから、その頃は、歓迎看板はなかったはずです。歓迎看板の登場時期は、はっきりとはしませんが、観光目的で、あらかじめ誰が宿泊するのか、宿側が把握するようになった頃からと思われます」

Q.歓迎看板では、宿泊客のグループ代表者全員の名前を記しているのでしょうか。どのような基準で看板を出す出さないを決めているのでしょうか。

高岡さん「その宿泊施設の規模や方針により、さまざまです。宿と取引関係にある会社から予約が入った場合は、優先的に掲げられる場合もありますし、客室数が少ない施設であれば、その日の宿泊客のグループ代表者全員の名前を記す事例を、過去に見たことがあります。

また、観光地の高級旅館に団体名や会社名が掲げられていると、格好が良いという理由で喜ばれる場合もあるかもしれません。特に、団体旅行が一般的であった時代は、看板を出すことが喜ばれていた当時の名残や、地域性も要素の一つになります。

一方、最近は個人情報保護の観点から、あらかじめ客側に歓迎看板を出してよいか尋ねる宿もあるようです。歓迎看板を掲げたことで、客に最初から不愉快に思われては、『おもてなし』にはならないので、賢明な方法だと思います」

Q.「歓迎〇〇御一行様」の看板は、以前よりも見る機会が減ったように思います。旅館の歓迎看板は、減ってきているのでしょうか。

高岡さん「個人情報保護法が全面施行された2005年ごろから、旅館の歓迎看板は著しく減ってきていると思います。法の施行以外にも、コロナ禍前までの外国人観光客の増加で、プライバシーを重視する海外の習慣と、氏名やグループ名が表に出る歓迎看板の日本の『おもてなし』が相いれなかったという問題が挙げられます」

Q.「歓迎〇〇御一行様」と複数人で宿泊することが前提の表記ですが、1人で旅館に宿泊するときは、歓迎看板を出してもらえないのでしょうか。

高岡さん「こちらも先述したように、その宿泊施設の考え方によると思います。例えば、女性1人の宿泊とあらかじめ分かっている上で歓迎看板を掲げるのは、考えにくいですね。快適に過ごしてもらうことが日本の旅館の『おもてなし』の極意とされているので、機械的に誰でも名前を掲げることは、通常はないと思います」

Q.歓迎看板に名前を書かれたくないときは、どのようにすればよいですか。

高岡さん「歓迎看板を掲げることを慣習にしている旅館の場合、予約時に看板を掲げるかどうか希望を尋ねられることが一般的になってきました。書かれたくない場合は、その旨を伝えるとよいと思います。個人情報保護の観点からも、すんなりと応じてもらえるはずです。

日本の歓迎看板は、宿泊施設側の『おもてなし』の形の一つです。先人の歓迎看板の文化を誇りに思いつつ、いつの時代も個々の客への配慮と、社会の変化に応じた『おもてなし』ができる宿泊施設が、日本にたくさんあり続けてほしいです」

(オトナンサー編集部)

1 2

高岡よしみ(たかおか・よしみ)

ホテルジャーナリスト、人材育成コンサルタント

有名ホテルに勤務し、顧客部フロアサービス課で接客サービスのスキルとホスピタリティーマインドを身に付ける。その後、モデルに転身し、オリエンタルで中性的な魅力を放つ独特の存在感が認められ、欧州やアジアのコレクションなどで活躍。出産後はハイエンドな舞台で磨かれた、相手を魅了するスキルを生かし、女性の美しさやマナーをテーマにした講演を行い、反響を呼ぶ。現在は研修講師として企業の新人や管理職研修を行うほか、ホテル・旅館や店舗運営のコンサルティングなども手掛ける。

コメント