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値上げ理由は「企業努力の限界」とするメーカー、“努力”の中身を明かさない理由は?

メーカーが自社商品の値上げをするとき、その理由を「企業努力の限界」としますが、どのような努力をしたのかを明らかにすることは、ほとんどありません。なぜでしょうか。

値上げは「企業努力の限界」?
値上げは「企業努力の限界」?

 10月になり、マーガリンやパスタ、家庭用レギュラーコーヒーなどが値上がりしました。毎年、春や秋には値上げのニュースが多く報道されますが、その中で気になるのが値上げ理由です。よく、「原材料費が高騰しており、『企業努力』も限界で、やむを得ず値上げする」などと伝えられますが、この「企業努力」が具体的にどのような努力かは分かりません。裏返せば、「メーカーは『企業努力の限界』と言えば、何も努力していなくても値上げができるのでは?」と思ってしまいます。

 メーカーは「企業努力」を具体的にした方が消費者から理解を得られやすいと思うのですが、なぜ、明らかにしないのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

天候不順や原価高騰など理由に

Q.メーカーが値上げを避けるために行う「企業努力」とは、どのようなことですか。

大庭さん「値上げのきっかけは天候不順や天災の他、原価の高騰や税制改正などが挙げられます。天候不順や天災はメーカーにとって予測不能ですが、原価の高騰や税制改正などは事前に影響を予測できるため、メーカーは可能な限り、値上げを避ける手段を考えようとします。具体的には、製造方法や工程、原材料の調達方法の見直しなど、値上げを回避する方法を考え、実現可能かどうか検討します。

これらの対応を可能な限り実施した上で、値上げに踏み切るか否かを決断するわけです。こうした、製造方法や工程、原材料の調達方法の見直しなどを行うことが値上げを避けるために行う企業努力なのです」

Q.「生産の合理化・効率化や輸送体制の見直しをした」といった説明をするメーカーもありますが、多くは企業努力の一言でとどめています。なぜ、企業努力の詳細を説明しないメーカーが多いのでしょうか。

大庭さん「メーカーにより、さまざまな思惑があると思いますが、2つのいずれかの理由があると考えています。1つ目は、企業努力の内容を詳細に公表することで、将来、原価が下がるなど値上げに踏み切った要因が解消された場合、値下げをせざるを得なくなるリスクを回避するためです。つまり、生産の合理化・効率化や輸送体制の見直しが可能なのであれば、原価が引き下げられたのを機に、値下げをすべきだという声が高まることを防ぎたいということです。

2つ目は、企業努力の内容を詳細に公表することで、メーカー独自のノウハウが公になるリスクを回避するためです。メーカーは市場での競争に打ち勝つために、競合他社との差異化を図ります。そして、製品の生産や供給などの体制も差異化につながる要素です。メーカー独自のノウハウとなる部分が存在した場合、企業努力の内容を詳細に説明することが市場での競争力を弱めることにつながりかねません」

Q.「『企業努力の限界』と言えば、何も努力していなくても値上げできると考えているのでは?」と疑う人もいるかもしれません。ネガティブに捉えられる可能性をメーカーは考慮していないのでしょうか。

大庭さん「もちろん、『企業努力の限界』などという簡単な一言で済ませた上で値上げに踏み切ると、消費者からの反発を招くという認識はどのメーカーにもあるはずです。一方、メーカー(企業)は『市場での付加価値を高め、消費者のニーズに応え、それにより適正な利潤を獲得し、納税などを通じて社会に貢献する』という使命を担っています。適正な利潤を獲得できない製品の生産や市場への供給はメーカーとしての使命に反することです。

この観点から、値上げが必要な措置だとメーカーが判断した場合、値上げの告知を行うことと併せて、『今後、どのような形で市場での付加価値を高め、消費者のどのようなニーズに応えていくのか』というメッセージの発信を何らかの形で行っていることが多いと私は考えています」

Q.メーカーが値上げを避けるための企業努力を一言では説明しにくいことも、明らかにできない理由なのでしょうか。

大庭さん「そのように思います。企業努力の内容を説明しようとすると複雑で長くなり、メーカー側の論理が消費者には伝わりにくい可能性があります。内容が言い訳のように聞こえ、消費者のさらなるイメージの悪化を招くリスクがあり、それを回避したいという事情もあるのではないでしょうか。

例えば、製造工程の見直しを考えるとき、消費者側の論理では『人員を削減して、工程を短略化すればよい』と解釈されても、メーカー側の論理では『雇用義務の履行や品質維持のために、人員の削減による工程の短略化は合理的な対応ではない』という見解になった場合、双方の考えが相反し、消費者に伝わりにくい状況になるイメージです」

Q.生活用品の値上げを私たちはある程度、定期的に体験します。現状では「値上げされたのだから仕方ない」と受け入れていますが、本当に必要な値上げなのか、この値上げ幅は適切なのかなど、一歩立ち止まって考えた方がよいのでしょうか。

大庭さん「値上げを体験したとき、『その商品に自分が求める価値とは何なのか』を考え、気付くチャンスなのだと思ってみてはいかがでしょうか。そのように考えることで、『自分にとって最適な商品は何なのか』『この商品を消費することで、今後の自分はどのようなベネフィット(効果や利益)を得られるのか』に気付くことができます。そうなることで、消費することへの満足度が高まります。そのような視点で、値上げについて考えてみたらいかがでしょうか」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

コメント

2件のコメント

  1. 最初から値上げを悪ととらえて、コメントを求めている編集部もどうかと思うが。値段をどうするかは企業の自由ではないかと思います。売れなくなるのも自由ですし、社員の昇給の財源をそこで賄うのも自由だと思います。それに対して大庭さんが冷静に返答されているのが素晴らしい。

  2. 質問の内容が稚拙です。メーカーはどんだけ苦労して値上げせずにしようかと努力しています。
    疑いの視点から入る質問にイラっとします。