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傘の「横持ち」で誰かにけがをさせたら…故意でなくても責任問われる?

無意識のうちにやってしまう、傘の「横持ち」で誰かにけがをさせると、わざとではなくても罪に問われるのでしょうか。弁護士に聞きました。

傘の「横持ち」でけがをさせたら…?
傘の「横持ち」でけがをさせたら…?

 本格的な梅雨の時季となり、外出時に傘を持って出掛けることも多くなりました。そうしたときに気になるのが、傘を地面と水平になる状態で持つ傘の「横持ち」です。持ちやすさから、無意識のうちに横持ちしている人もいるようですが、横持ちを商業施設や駅の階段、エスカレーターですると、後方の人にけがをさせる可能性があります。わざとではなくても、横持ちの傘の先で誰かにけがをさせると罪に問われるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

賠償金5000万円の可能性も

Q.わざとではなくても、横持ちの傘の先で誰かにけがをさせると罪に問われるのでしょうか。問われる場合、どのような罪ですか。

佐藤さん「わざとではなくても、過失によって人にけがを負わせた場合、過失傷害罪(刑法209条)に問われる可能性があります。過失傷害罪は親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができない罪)なので、被害者などが処罰を望まなければ起訴されることはありません。過失傷害罪の法定刑は30万円以下の罰金、または科料です。科料は罰金より軽い財産刑で、金額が1000円以上1万円未満になります。同罪には懲役刑などは定められていません」

Q.「傷害罪」や「暴行罪」にはならないのでしょうか。

佐藤さん「無意識に傘を横持ちして、誤って、人にけがをさせてしまったケースでは傷害罪や暴行罪にはなりません。傷害罪や暴行罪が成立するためには、相手を傷つけようとするなどの『故意』が必要ですが、傘を横持ちしている人には、人の身体に傘をぶつける認識がないからです。一方、横持ちした傘で、人をつついてやろうなどと思ってつついたのであれば、暴行罪が成立し、そのような認識でつついた結果、相手にけがを負わせれば、傷害罪が成立します」

Q.わざとではなく、傘の横持ちでけがをさせてしまっても、報道などで、実際に過失傷害罪で処罰されたケースを聞いたことがありません。なぜでしょうか。

佐藤さん「先述したように、過失傷害罪は被害者側が処罰を望み、告訴しないと起訴することができない犯罪です。仮に横持ちの傘の先が当たり、けがをすることがあっても、多くのケースでは、加害者側が被害者側と示談をすることで告訴されずに解決しているものと思います。また、被害者が告訴をした場合であっても、故意ではなく、加害者側の不注意によるものですし、被害者側のけがの程度が軽ければ、不起訴処分になる可能性が高いでしょう」

Q.幼児の場合、横持ちをした傘の先が顔付近に当たる懸念があります。子どもにけがをさせたときは、けがをしたのが大人の場合よりも重い刑罰が科されるのでしょうか。

佐藤さん「横持ちの傘の先が顔付近に当たれば、確かに大きなけがにつながる危険性は高いです。しかし、法律上は被害者が子どもであったとしても、そのことのみで起訴されやすくなったり、罰金の金額が上がったりするわけではありません。けがの程度や解決金の有無などが総合的に判断されるものと思います」

Q.傘の横持ちでけがをさせたとき、刑事罰とは別に損害賠償を求められるケースもあるのでしょうか。ある場合、どのようなことに対する賠償が発生しますか。

佐藤さん「不注意でけがをさせた場合、民法の『不法行為』に当たり、刑事罰とは別に損害賠償を請求されることがあります。被害者はけがの治療のため、医療費がかかります。また、けがのせいで働けない期間が生じたり、後遺症によって働く能力が下がったりすることもあるでしょう。さらに心も傷ついていると思われます。加害者はこうした治療費や休業損害、後遺症がなければ本来得られたであろう収入である逸失利益、慰謝料などを賠償しなければなりません」

Q.仮に横持ちの傘の先が子どもの顔や目に当たりけがをさせ、重い後遺症が続いた場合は、どれくらいの賠償が発生する可能性がありますか。

佐藤さん「横持ちの傘の先が子どもの顔や目に当たり、けがを負わせて、重い後遺症に苦しむことになれば取り返しがつきません。子どもはこれから働き始める存在であり、後遺症がなければ、将来、働き続ける何十年もの間に本来得られたであろう収入は高額になります。つまり、逸失利益が高額なため、加害者の負う賠償責任も相当重くなります。例えば、子どもを失明させたようなケースでは、賠償金額が5000万円程度になることもあり得ます。

傘の横持ちで相手にけがを負わせた場合の刑事罰はそれほど重くないように見えるかもしれません。しかし、損害賠償を求められれば、極めて高額の賠償金を支払う可能性があります。傘を横持ちする人には全く悪気がなく、癖や気分でそのような持ち方をしてしまうだけなのでしょうが、その行為にひそむリスクを認識することは大切です。不幸な事故をなくすため、社会全体で横持ちをなくしていくことが重要でしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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