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利権のため?声も IOCが東京五輪・パラ開催にこだわる理由とは

国際オリンピック委員会がコロナ禍でも、東京五輪・パラリンピック開催にこだわる背景には、世界各国のアスリートの生活や将来に関わる事情もあるようです。

東京五輪のテスト大会(2021年5月、AFP=時事)
東京五輪のテスト大会(2021年5月、AFP=時事)

 東京五輪の開幕予定日(7月23日)まで、あと2カ月となりました。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、東京五輪・パラリンピックの開催を疑問視する声が強まっていますが、国際オリンピック委員会(IOC)は今のところ、開催への姿勢を変えていないようです。IOCが開催にこだわる事情について、ネット上では「五輪関連の利権を守りたいためでは?」「私利私欲のためにコロナ禍でも強行しようとしている」といった臆測も飛び交っています。

 しかし、スポーツに詳しい専門家によると、世界各国のアスリートの生活や将来に関わる事情もあるようです。IOCがコロナ禍でも、東京五輪・パラリンピックの開催にこだわる理由について、スポーツビジネスにも詳しい、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

アマチュアスポーツが危機的状況に

Q.IOCがコロナ禍でも、東京五輪・パラリンピックの開催にこだわる本当の理由は何だとお考えですか。

江頭さん「アマチュアスポーツへのダメージを避けるためです。IOCが発行した、五輪で得られたお金の流れを示す冊子『OLYMPIC MARKETING FACT FILE 2020 EDITION』によると、2013年から2016年までのIOCの収入は全体の73%が放映権料、18%がスポンサーからの収入で、総収入は約57億ドル(約6200億円)でした。このうち、90%が世界各国のオリンピック委員会にアマチュアスポーツの強化費用として分配されています。4年分で約5580億円なので、概算で年間約1400億円です。

もちろん、日本オリンピック委員会(JOC)もこの強化費用を受け取り、年間112億円をアスリートの支援に使っています。世界トップクラスのアスリートを育てるためには、練習場所や指導者、国際大会への出場など、さまざまな費用が必要です。プロリーグのある競技であれば、選手たちの生活は強化費用なしでも成り立ちますが、プロの世界がない競技は、JOCからの強化予算が競技人生を続けていくためにも非常に大切なのです。これは世界各国でも同じ構造です。

もし、東京五輪が中止になれば、世界トップクラスのアスリートのパフォーマンスを維持するための資金がなくなるということです。アスリートの中には、競技を引退して、職探しをすることになる人も出るでしょう。世界レベルのアスリートが持っている才能が開花しない事態にもなりかねません」

Q.「IOCは自らの利権、私利私欲のため開催にこだわっている」という声がネット上などにあります。それは事実誤認ということでしょうか。

江頭さん「多くの人が誤解していると思います。東京五輪で得られる収入のほとんどが、バッハ会長などIOCの役員やそれに連なるIOC関係者の懐に入るわけではありません。前述したように、公表資料で見る限り、これまでの五輪では、得られた収入の90%が世界のアスリートの強化費用として使われています」

Q.仮に東京五輪・パラリンピックが中止になった場合、アマチュアスポーツの支援はどうなってしまうのでしょうか。

江頭さん「今までより減額されるでしょうが、IOCが支援をゼロにすることは考えられません。しかし、今後の五輪の規模を縮小することは考えられます。IOCが支援するのは五輪競技に限られます。東京大会では33競技339種目が行われますが、これを200種目程度にまで絞り込めば、IOCの強化費用の支出も減少します。野球が五輪競技から除外されたように、次回の大会に向けて、大幅減少の可能性も否定できません。その分、IOCが支援する競技が減るということです。

もう一つの問題は、プロリーグが存在しない競技を行うアスリートがメディアに露出する機会を失い、スポンサーが離れる危険性です。スポンサーはもちろん、アスリートが活躍するのを応援したいという思いから支援するのですが、同時に、アスリートがメディアに露出することで、スポンサーのイメージ向上や認知拡大などの見返りを求める部分もあります。そのため、五輪競技から外れれば、さらにメディアに露出する機会が減少し、スポンサーをする意味がさらに低下すると思われます。

次世代の世界レベルのアスリートを育てる資金や支援者が減ってしまったら、アマチュアスポーツは危機的状況に追い込まれるでしょう」

Q.IOCは東京五輪・パラリンピックが中止になった場合に備えて、保険をかけています。開催されたときに近い収入を保険金で賄うことは難しいのでしょうか。

江頭さん「ロイターの報道によると、損害保険で補える金額は2000億~3000億円です。開催された場合のIOCの収入に対して、60~70%程度は保険で賄える可能性があります。しかし、保険は『損害をカバーする』ことが基本です。契約の内容にもよりますが、IOCの利益分(分配額)まで支払われるとは思えません。結局は、五輪の競技種目減少に結びつくことになると思います」

Q.つまり、「アマチュアスポーツの存続に関わるため、IOCは東京五輪・パラリンピックの中止を自ら宣言することはできない」ということなのでしょうか。

江頭さん「それもありますし、五輪開催地として立候補する都市が激減していることもIOCは気にしていると思います。

次回2024年大会への立候補はフランスのパリ、アメリカのロサンゼルスのわずか2都市でした。意思表明はしたものの、最終選考前に立候補を取り消した都市は15都市で、2020年大会で東京と争ったトルコのイスタンブールや、2022年にFIFAワールドカップが開催されるカタールなどの有力候補もことごとく、立候補を見送りました。立候補しない最大の理由はテロや感染症対策など、競技に直接関係ない、さまざまな費用が肥大化しているためです。

東京五輪・パラリンピックの経済効果は32兆円あると、2017年に東京都が試算しています。ただ、32兆円のうち、27兆円は大会後のレガシー効果という『推定』で計算されており、未来予想の部分が多過ぎます。このレガシー効果は『交通インフラ整備、バリアフリー対策、インバウンドの増加、競技会場の活用、スポーツ人口・イベントの拡大等』とされており、新型コロナの感染拡大で大きく計算が狂ってしまった項目ばかりです。

既に開催が決まっているパリも『IOCに契約違反金を払う方がダメージが少ない』と判断すれば、開催権を返上すると言い出してもおかしくありません」

Q.では、実施する方法はあるのでしょうか。

江頭さん「分散開催です。33競技339種目を4分割して、時期をずらして開催するのです。一度に日本を訪れる外国人アスリートや関係者を減らすことで、日本の医療従事者への負荷を減らせます。医療従事者については500人の看護師が必要とされていますが、分散すれば150人以下で済むでしょう。2週間で全ての競技をすることの意義は世界のアスリートが種目を超えて交流することですが、中止にするよりは、交流という点を犠牲にしても、2021年に五輪のメダリストをはっきり決めることが大事だと思います。

開会式は選手入場と選手宣誓、オリンピック旗の掲揚と聖火の点灯だけでも構いません。さまざまな要素をスリムアップして、『世界一のアスリートは誰か』を決める機会を確保してほしいと思います」

(オトナンサー編集部)

江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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