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「未婚の母」という選択、法的なメリットとデメリットは?

芸能界で、未婚での出産・育児を選択するケースが増えています。「未婚の母」という選択には、どのような法的メリット、デメリットがあるのでしょうか。

最上もがさん(2016年9月、時事通信フォト)
最上もがさん(2016年9月、時事通信フォト)

 11月12日、タレントの最上もがさんが自身のブログで、第1子の妊娠を報告しました。最上さんは「とてもうれしく思っています」と妊娠の喜びをつづるとともに、「今のところ結婚の予定はございません」と、未婚の母として子どもを育てていく意向を示しています。

 芸能界では他にも、歌手の浜崎あゆみさんや華原朋美さんら、未婚での出産・育児を選択するケースが増えており、ネット上では「未婚での育児は大変だと思うけど頑張ってほしい」「これからはいろんな家族の形があっていい」と応援の声が上がる一方で、「母親はよくても、子どもには影響があるはず」「デメリットの方が大きいのでは?」など、この選択に疑問を抱く人もいるようです。

「未婚の母」という選択には、どのような法的メリット/デメリットが考えられるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

認知がないと「法的な父親」不在に

Q.法的に、結婚後に妊娠・出産する場合と、そうでない場合の違いは何でしょうか。

佐藤さん「最も大きく違うのは法的な父子関係です。結婚していようがいまいが、出産することにより、母子関係は明らかです。しかし、父親が誰であるかは必ずしも明らかではありません。

そこで、法は『婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する』(民法772条1項)というルールを定めています。これにより、結婚後に妊娠・出産した場合、『夫が父親』と推定され、戸籍の父親欄には夫の氏名が記載されます。父子関係を争うには、夫が『嫡出否認の訴え』を起こさなければならず(同775条)、この訴えは夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければなりません(同777条)。従って、結婚してから妊娠・出産すると法的な父子関係は早期に安定します。

妊娠してから結婚する、いわゆる『授かり婚』の場合、いつ結婚し、いつ出産したのかにもよりますが、基本的に『婚姻中に妊娠した』とは推定されず、『夫の子である』という推定も働きません(同772条2項)。それでも、この場合も戸籍の父親欄には夫の氏名が記載され、婚姻中に妊娠したケースとそれほど大きな違いはありません。ただし、後に父子関係が問題となった場合、出生から何年たった後でも争い得るといった違いは生じます。

これに対し、結婚しないまま出産した場合、戸籍の父親欄は空欄になり、父親による『認知』がない限り、法的な父親は不在となります。認知がなければ、父親には法的な扶養義務がないため、養育費の支払いを法律上の権利に基づいて請求することができず、子どもは父親の法定相続人にもなれません」

Q.では、結婚せずに出産した場合、「父親」は法的にどう決まるのですか。

佐藤さん「先述したことと関連しますが、父親による認知があれば、法的な父子関係が成立します。認知は父親が自らの意思で認知届を提出すれば効力を生じますが、父親が認知しない場合、裁判所の手続きにより、強制的に認知を求めなければなりません。なお、父が死亡して3年経過すると認知の訴えを提起できなくなります(民法787条ただし書き)。このように、結婚しないまま出産すると父子関係が不安定になります」

Q.もし、母親や子どもが認知を求めなかったり、父親が死亡して3年経過するまでの間に認知の訴えを起こさなかったりした場合、法的な父親はずっと決まらないことになるのでしょうか。

佐藤さん「父親が自らの意思で認知せず、母親や子どもも認知を求めなければ、法的な父親はずっと決まらず、戸籍の父親欄も空欄のままです。そして、父親が亡くなり、3年たってしまえば、法的な父親は不在ということになります。ただし、養子縁組によって、実父以外の男性と法的な父子関係を結ぶことは可能です」

Q.出産・育児をする上での、結婚をする/しない、それぞれの選択による法的なメリット/デメリットとは。

佐藤さん「結婚する選択をする人、しない選択をする人にはそれぞれの理由があると考えられるので、メリット/デメリットの捉え方は人によって異なるでしょう。例えば、夫婦別姓を貫きたい場合、母親・父親には結婚しないメリットがあると思います。

先述の父子関係の安定性に関する考え方もさまざまです。早期に父子関係を安定させることを重視する母親・父親にとっては、結婚してから妊娠・出産するメリットが大きいですし、一般的には、父子関係の安定は子の福祉にかなうと考えられるため、子どもにとってもメリットになると思います。

一方、法的な父子関係を生じさせることによって、逆に、子も父親に対して扶養義務を負うことになりますし、法定相続人になることで、父親の借金を相続してしまうことも考えられます。こうした父子関係をデメリットと受け止める人にとっては『結婚も認知もしない』という選択がメリットに感じられるでしょう。

また、『認知さえすれば、法律上の父子関係は認められるのだから、結婚はしなくてよい』と考える母親、父親もいるでしょう。2013年12月より、相続分について、結婚している親から生まれた子と結婚していない親から生まれた子との間にあった不平等が解消され、子にとっても、親が結婚しないことによる法律上の明らかなデメリットはなくなっています」

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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