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100回書きなさい!で練習嫌いに…子どもが楽しめる「文字」の教え方は?

子どもに平仮名など文字を教える際は、どのようにすればよいのでしょうか。筆者の長年の経験を踏まえて、アドバイスします。

子どもに平仮名をどう教える?
子どもに平仮名をどう教える?

「お手本をよく見て書きなさい!」「もっときれいに書きなさい!」「覚えるまで、100回書きなさい!」「ほら、そこ違うでしょ、書き直し!」

 私は長年、子どもたちに文字を教える仕事をしていますが、こんなふうに指導すると間違いなく、子どもは文字の練習が嫌いになってしまいます。

 また、「まるで、虫眼鏡でチェックするかのような添削をする」「消しゴムを使って、何度も書き直しをさせる」「他の子と比較して評価する」…これらも同様に「文字嫌い」の子をつくってしまう要因になります。

 では、どのように教えれば、楽しく文字が書けるようになるのでしょうか。

印象に残ると忘れにくい

「5」の書き順の覚え方(筆者提供)
「5」の書き順の覚え方(筆者提供)

 小学生になっても、数字の「5」の上の部分の横棒を先に書いてしまう子がいます。筆順を「1番→2番…」と教えても、子どもにとっては単調でつまらないので、すぐに忘れてしまい、また同じ間違いをしがちです。

 このようなときは「お出掛けゴーゴー(55)! 出掛けるときは最後に帽子をかぶるよね。ここ(5の横棒の部分)は“帽子”なの。だから、先に“体”を書いて、最後に帽子をかぶろうね」。こう教えると、子どもたちは一度で正しい筆順をマスターします。

 次に、平仮名の「も」。これも筆順を間違えて覚えている子が多い文字です。片仮名の「モ」は横棒が先ですが、平仮名は「し」のようなくるんとした部分を先に書き、次に横棒を2本書きます。

 筆順を「1番→2番→3番」と練習しても、子どもはすぐに忘れてしまいます。しかし、「尻もちドーン、でも、腕2本で何とか踏ん張る」と覚えると忘れません。なぜ、これで正しい筆順を覚えることができるのでしょうか。それは子どもたちの印象に残りやすいからです。

 つまらない覚え方だと、いったん脳に短期記憶はされるもののすぐに忘れてしまいます。歴史の年号を語呂合わせで覚えた経験は皆さんもあるでしょう。例えば、「遣唐使が廃止されたのは894年」と覚えても忘れてしまうので、「船酔いで吐くよ(894)、遣唐使廃止」という覚え方もあるようです。

 人間の脳には、長期記憶に関して重要な働きをする「海馬」という部分があります。一度覚えたものは短期記憶としていったん保存されますが、長く記憶しておくには海馬の横にある、感情をつかさどる部分「へんとう体」を震わせる必要があるそうです。

 子どもに文字を教えるときも記憶に残らない単調な教え方ではなく、印象深くて面白い教え方をしましょう。

楽しく覚える工夫を

「よ」と「わ」「ね」「れ」の覚え方(筆者提供)
「よ」と「わ」「ね」「れ」の覚え方(筆者提供)

 では、文字の「形」はどのように教えるのがよいのでしょうか。小学校では、平仮名の「よ」の結びの部分を「リボン結び」と教えるようですが、果たして今の時代、子どもたちにとって、リボンはどのくらい身近なものでしょうか。具体的な形が思い浮かぶ子はいるでしょうか。

 この部分について、「最後は『おたま』を書いてね」と教えると、子どもたちは「それ、うちにある! おみそ汁をよそうときに家で使っている」とイメージでき、きれいに結びを書けるようになります。

「わ」「ね」「れ」はどうでしょうか。この3つの文字は左側の部分は同じですが、最後の部分はもちろん、カーブの形も微妙に違います。こんなときは「『わ』…卵が入る」「『ね』…おにぎりが入る」「『れ』…スイカ(またはサンドイッチ)が入る」と、普段食べているものを交えて教えると一気に覚えることができます。

「オノマトペ」を取り入れる方法もあります。オノマトペとは「シャーッ」「バキッ」「ドドドド」といった擬音語・擬態語のこと。オノマトペ研究家の藤野良孝さんによると、表現しにくい動きや物事も理屈や意味でなく、「音」によって一瞬でイメージができることから、動作がうまく行えるようになり、記憶が定着するそうです。

 例えば、跳び箱が跳べるようになるオノマトペ。「助走しなさい、踏み込みなさい、手をつきなさい」ではなく、「サー(助走)、タン(踏み込み)、パッ(手をつく)、トン(着地)」と言いながら跳ばせるとよいそうです。また、逆上がりができるようになるオノマトペは「ギュッ(鉄棒をしっかり握る)、ピタッ(鉄棒と体を近づける)、クルン(回る)」です。

 平仮名を書くときにも、次のように声を出しながら書くと、その通りに手や指先が動きます。

・「わ」…卵で「シュー」
・「ね」…おにぎり、お玉で「キュッ」と結ぶ
・「れ」…スイカ(またはサンドイッチ)で「シュー」

「鉛筆の持ち方も字形も筆順も、正しいやり方にこだわる必要はないのでは?」と反論を受けることがあります。しかし、鉛筆も筆順も正しい持ち方や順番だと疲れにくく、無駄な動きをせず、楽に書けるのです。パソコンのキーボードの「ホームポジション」と同じですね。最初に正しい指の置き位置をマスターすることで、結果的に早く打てるようになるのと似ています。

 平仮名は46文字しかありませんが、大人が読む文章でも、平仮名が7割程度を占めるといわれています。SNSが普及しても、字を書くことは一生ついて回ります。「筆順も形もめちゃくちゃでいい、取りあえず書ければいい」とするのではなく、人生の早い段階で文字を嫌いになることがないよう、楽しく覚えられるようにしましょう。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

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