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初「ONE PIECE」で号泣42歳…アニメは自分たちのものだと知ったアラフォー世代

かつて、アニメは子どもか「オタク」と呼ばれる大人が楽しむものでしたが、最近はアラフォー世代にも、ごく身近なものとして楽しむ人が増えているようです。なぜ、ハマるようになったのでしょうか。

アニメ「クレヨンしんちゃん」の野原しんのすけと、その声を務める小林由美子さん(2018年12月、時事)
アニメ「クレヨンしんちゃん」の野原しんのすけと、その声を務める小林由美子さん(2018年12月、時事)

 アニメ映画「劇場版『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』無限列車編」が公開早々、大ヒットとなっています。老若男女の支持を集めての大ヒットですが、昔はアニメといえば、子どもか「オタク」と呼ばれるマニアックな大人が楽しむコンテンツでした。アラフォー世代もアニメをごく身近なものとして楽しむ人が増えているようですが、彼らはアニメのどこにひきつけられるのか、また、どのようなきっかけでハマるようになったのか、いくつかのケースを紹介したいと思います。

「子どものもの」という侮りが恥ずかしい

 子どもがいる場合には、子どもがアニメを見ているのを横から見ているうちに自分もハマってしまった…ということが往々にしてあります。趣味は音楽鑑賞で、渋いジャズを聞くのが好きなAさん(42歳、男性)はアニメ、漫画、ゲームには興味がなく、映画は年に数本見る程度という硬派なジャズ好きおじさん。ずっと「アニメは子ども向けのもの」という考えの持ち主でした。

「息子と妻がアニメ『ONE PIECE(ワンピース)』について、あれこれ話しているのを聞き、その存在を知りました。その後、それが国民的なヒット作品で大人も楽しめる漫画だということを知りましたが、それでも『やはり、結局のところ、(子ども向けの)漫画でしょう』と思い、興味が持てませんでした」(Aさん)

「ONE PIECE」を知るタイミングが世間よりワンテンポ遅かったAさんは息子にせがまれて、劇場版を見るため映画館に行きます。そこで初めて「ONE PIECE」という作品に触れ、大きなショックを受けました。

「『子どもが見たいのだから仕方ない』と全く期待していなかったのですが、見るうちにぐんぐん引き込まれ、映画館を出る頃には、ハンカチが涙と鼻水でぐしょぐしょになっていました。こんなに面白い作品がアニメにあったのかと大きなカルチャーショックでした」

 それ以降、Aさんは「ONE PIECE」にすっかりハマり、アニメそのものへの考えも改めることになりました。

「『アニメだから』と心のどこかで侮っていた自分が恥ずかしいです。アニメだろうと、いいものはいいし、子どもも大人も関係ないのだと知りました」

 なお、現在大ヒット中の「鬼滅の刃」を孫の影響で見て、ドハマりした60代夫婦のケースもありました。「アニメは総じて子ども向け」の価値観が強かった時代に育った人が現代のアニメに触れ、「食わず嫌いで敬遠してきたけど、一度触れてみて、そのよさを知った」となることは多そうです。

アニメの進化に驚きハマる

 趣味が映画鑑賞のBさん(37歳、男性)がアニメを見るようになったきっかけは、映画配信の定額制見放題(サブスクリプション)サービスでした。

「昔はレンタルビデオ店や映画館に行かないと映画は見られなかったから、サブスクリプション形式のサービスが出てきたことは、映画好きとしては本当にありがたかったです。配信されている作品を選んで見放題ですし、定額制の対象外の作品でも、わざわざレンタルビデオ店に行かずに自宅で、ネット決済で見られるので重宝しています」(Bさん)

「平均で日に1本は映画を見る」というBさんのペースがやがて、ちょっとした問題を引き起こします。

「サブスクリプションで気になる作品や、過去に見たけどもう一度見たい作品を片っ端から見ていくわけですが、そのときに配信されている作品で、見たいものを見尽くしてしまうことがあるのです。自宅で映画を選ぶ習慣がついて、レンタルビデオ店や映画館に足を運ぶのも面倒に感じるようになり、『さあ、どうしようか』と思っていたのですが…」

 リモコンをいじって、配信作品を何となく眺めていたBさんは“ランキング”に目を留めました。

「私が加入しているサブスクでは、その時々で人気のある作品が“ランキング”に表示されるのですが、自分の好みは自分が一番把握していると考えていたので、あまり当てにはしていませんでした。しかし、『見るものがない、どうしよう』と途方に暮れたとき、ランキングに入っている作品を『人気があるなら見てみようか』という気になりました。見たいものがなくなったときだけ、ランキングを参考に見るものを決めていたのです」

 この段階ではまだ、Bさんがアニメを見ることはありませんでした。

「そのランキングにいくつかのアニメがちょくちょく入ってきているのは目にしていて、『子どもたちが見て人気を押し上げているのかな』と思いましたが、中には明らかに子ども向けではなさそうな作品もあり、『大人もアニメを見るのだな』くらいには思うようになりました。

しかし、自分が見るかというと、また別の話で抵抗がありました。映画通の人がみんなそうだとは思いませんが、私の場合は『実写映画こそ至高』と考えていたところがあり、それ以外のカルチャーを下に見ているところがあったのです」

 やがて、ランキングに出入りする映画も全て見て、ついに、Bさんはアニメに手を伸ばします。最初に見たのはダークな世界観が特徴的な『東京喰種(トーキョーグール)』でした。

「正直、びっくりしました。自分の中で、アニメが子どもの頃に見ていたときで止まっていたからです。絵がとてもきれいで、アクションシーンも迫力を感じました。一番驚いたのは声優の演技です。映画を見るときは俳優の演技に一番重きを置いて楽しむのですが、アニメの声優さんの演技に心揺さぶられることが何度もあり、『これは実写映画と同様の楽しみ方できるではないか』と。それで、まだ見ていないアニメが山ほどあることに気付いてうれしくなりました」

 子どもから大人になるにつれ、アニメ離れをしたアラフォー世代は多かったはずです。現代のアニメに触れて、約30年分の進化を目の当たりにし、感心するとともにアニメにハマってしまうというパターンもあるようです。

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武藤弘樹(むとう・こうき)

フリーライター

早稲田大学第一文学部卒。広告代理店社員、トラック運転手、築地市場内の魚介類卸売店勤務などさまざまな職歴を重ね、現在はライターとミュージシャンとして活動。1児の父で、溺愛しすぎている飼い猫とは、ほぼ共依存の関係にあるが本来は犬派。趣味はゲームと人間観察。

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