オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

ひきこもり長女は“心の病”を抱えて…障害年金7万円受給へ、両親の思い

ひきこもりを続ける人の中には、精神疾患などの障害を抱え、働くのが難しい人もいます。どうすればいいのでしょうか。

障害年金を受給するには?
障害年金を受給するには?

 長期間、ひきこもっているお子さんの中には、精神疾患を発症しているケースも見受けられます。家族や本人からは「症状のせいで働くことが難しい。収入がなく将来が不安」といった声を聞くことも多いです。

 お金の不安を解決する方法の一つに、障害年金を受給するというものがあります。もちろん、請求すれば誰でももらえるというわけではありませんが、選択肢の一つとして検討してみる価値はあると思っています。

障害年金請求を決意

 筆者は社会保険労務士の資格を持っており、障害年金の相談や請求代行の仕事もしています。ある日、30代のひきこもりの長女がいる両親から相談を受けることになりました。母親は長年の心労を隠し切れない様子でつぶやきました。

「長女はうつ病で、1日のほとんどを寝て過ごしています。起きている間もボーっとしていることが多いです。体を動かすのもしんどそうで、とても働けるような状態ではありません…」

 さらに、父親が続きました。

「通院している医師に収入の不安を口にしたところ、障害年金のことを教えてもらいました。しかし、『請求方法など詳しいことは分からない』と言われてしまいました。請求に向けて何から準備すればいいのかも分かりませんし、そもそも、長女は障害年金がもらえるものなのでしょうか」

 それに対し、筆者は次のように説明しました。

「障害年金が受給できるかどうかは、請求してみないと分からないというのが正直なところです。ただし、医師が障害年金の話をしてきたということは、可能性はゼロではないということでしょう。やってみる価値はあると思います。請求に向けて準備することはたくさんありますが、一緒に一つ一つクリアしていきましょう」

「はい。よろしくお願いいたします」

 父親と母親は、少しほっとした表情を見せました。

まずは初診日を確認

 障害年金を請求するにはまず、初診日がいつごろなのか確認する必要があります。初診日とは、その病気で初めて医師などによる診療を受けた日のことをいいます。そこで、まずは長女に関する話を聞くところから始めました。母親は言いづらそうなそぶりを見せつつ、語り始めました。

「長女は小さい頃から、『やる気が感じられない。怠けているんじゃないか?』という印象があったので、叱りつけてしまうことが多くありました。中学生の頃、『おなかを下す』『食欲がない』『夜眠れない』という状態が続いたので、近所の内科へ連れて行きました。そこで薬をもらったのですが、症状は一向に改善せず、むしろ悪くなる一方でした。

原因を探るため、いろいろな病院を転々としました。現在はうつ病で治療を受けています。あと、成人してから分かったことですが、長女は発達障害の傾向があったのです。長女は決して怠けていたわけではなかったんですね。しかし、当時はそんなことも知らなかったので、叱り過ぎてしまったのではと後悔しています」

 今回のご家族のように、実は発達障害の傾向があったと成人になってから判明するケースもあります。幼い頃に判明していないと適切なサポートを受けられず、親や学校の先生に叱られ続けてしまったり、友達からいじめられてしまったりすることもあります。本人もどうしたらよいのか分からず、うつ病などの二次障害を発症してしまうケースは残念ながら珍しい話ではありません。

 筆者は両親に告げました。

「どうやら、初診日は内科にかかった中学生の頃になりそうですね。そうなると、20歳前障害の障害基礎年金を請求することになります」

 すると、父親が疑問を口にしました。

「精神科ではなく内科になるのですか? 内科のときは、うつ病と診断されていませんが…」

「実は、うつ病などの病名がはっきりした日が初診日になるわけではないのです。例えば、『頭がふらふらする』『よく眠れない』『体がだるい』『耳鳴りがする』といった症状で内科や耳鼻科へ行ったとします。しかし、検査をしても特に異常が見つからず、その後もいろいろな診療科を転々とした結果、精神科でうつ病と診断されたとします。

体の異常は、実は心の病気が原因だったということですね。このような場合、精神科に行った日が初診日になるのではなく、体調を崩して内科や耳鼻科に行った日が初診日になるケースがよくあります。よって、ご長女の場合、まずは中学生のときに通った内科を初診として準備していくことになるでしょう」

「そうなんですね。分かりました。ちなみに、20歳前障害の場合、どのくらいもらえるものなのですか?」

「障害基礎年金には、1級と2級があります。仮に2級に該当した場合、月額で約6万5000円。さらに、障害年金生活者支援給付金が月額約5000円。合わせて約7万円になります」

「月7万円あればすごく助かります。ですが、まずは請求までこぎつけなければいけませんね」

 両親は互いに顔を見合わせて小さくうなずきました。

1 2

浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

コメント