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「にぎりずし」は箸で食べるもの? 素手で食べるもの? 和文化研究家に聞く

「にぎりずし」は素手でつまんで食べるものか、箸で食べるものか、SNS上で話題になっています。和文化研究家に聞きました。

にぎりずしは手で? それとも箸で?
にぎりずしは手で? それとも箸で?

 すし店で働いていた人が「にぎりずし」を持ち帰る客に「お箸は要りますか?」と聞いたら、客が「すしを手で食うのか?」と怒り出したという投稿が、SNS上で話題になっています。すしを食べる際、箸を使うかどうかは分かれるところで、「すしは素手で食べるものでは?」「回転ずしは箸で食べる」「『人前では箸で食べろ』と上司に説教された」など、さまざまな声があるようです。

 すしの食べ方について、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

初期は屋台で立ち食い、手でさっと

Q.にぎりずしは本来、どのような食べ物だったのでしょうか。

齊木さん「にぎりずしは、酢飯の小さな塊に魚や野菜、乾物などをのせ、江戸独自の手法で作られたすしを指します。すぐに食べられる『早ずし』の一種であり、『江戸前ずし』『あずまずし』とも呼ばれます。

このにぎりずしは文政年間(1818~30年)に、華屋与兵衛という人物によって考案されたといわれています。当時は拳ぐらいの大きさがあり、岡持ちに入れて売り歩いていましたが、やがて屋台が登場し、大衆にも広く普及しました。

また、米酢よりも値段が安い、酒かすを利用した三河の『粕酢(かすず)』を使い、その甘味やうま味がすし飯に合ったことも人気のきっかけとなりました。粕酢はそれまでの米酢とは異なる、コクのある風味と濃厚な色を備えた酢で、塩と酢のみの調味でおいしいすし飯ができ、生魚の味を引き立て、江戸っ子の好みに合致していました。なお、この頃のにぎりずしは、食事というより『おやつ』の位置づけでした。

握りずしの屋台では、『ツケ台』と呼ばれる台に大きなにぎりずしを並べて置いてあり、江戸っ子は2、3個買い、立ったまま食べていました。立ち食いが一般的で、まさに江戸のファストフードでした」

Q.素手でつまんで食べるのと箸で食べるのは、どちらが本来の食べ方なのでしょうか。

齊木さん「にぎりずしが誕生した頃の屋台では、立ったまま、素手ですしをつまんで食べることが主流でした。これは、にぎりずし自体が素手で簡単に食べられるように工夫されており、すし飯がこぼれず、しょうゆにつけやすいといった食べやすさから、手で食べる方が適していたからだと思われます。

気軽に立ち寄れて、注文するとすぐに出てきて、素手でサッと食べてすぐに帰る、という屋台でつまむスタイルが、せっかちな江戸っ子にとって粋な食べ方とされていました」

Q.箸も使うようになったのは、いつごろ、なぜでしょうか。

齊木さん「先述した通り、にぎりずしは本来、屋台において素手で食べるものとして庶民の間で親しまれてきました。しかし、程なくして、にぎりずしの考案者とされる華屋与兵衛は、屋台から『華屋』という立派な店舗を構え、『与兵衛鮨(すし)』として売り出しました。

ここは職人を多く抱え、主に富裕層を相手にした高級店でした。高級店のすしは町人などの庶民が食べられるような値段ではなく、とても高価な値段で、豪商や幕府の高官などが、おやつではなく食事やお土産として利用していました。

こうした高級な食事所では、安土桃山時代の茶人・千利休が茶席で愛用した、両端が細い『利休箸』が使用されていました。これは神人共食を指し、もてなし用のお箸として現在でも受け継がれています。こうして、『食事』として出される高級すし店で、箸を使う姿が見られるようになりました。

1844年、浮世絵師である歌川国芳の『縞揃女弁慶(しまぞろいおんなべんけい)』という絵の中には、厚焼き卵で巻いた太巻きとにぎりずしが小皿に盛られ、箸を添えた様子が描かれています」

Q.現代において、素手と箸はどちらがよい食べ方なのでしょうか。店や場面での違いがあれば、それも含めてお願いします。

齊木さん「現代において、素手で食べるか箸で食べるかはどちらがよい食べ方というのはありません。その場の状況に合わせて使い分けるのがよいでしょう。まずは、お店による使い分けです。基本的に、手で握ってくれたものは素手でいただくという伝統があります。

回転ずし店では最近、酢飯を機械で握ることが多いので、箸で食べるのがスタンダードになっています。一方、カウンターのお店など、職人が握るすしというのは、口の中でネタと酢飯が絶妙に混ざり合うよう、適度に空気を含んだ状態で握られています。繊細な技術で握られているからこそ、崩れる危険の少ない手で食べてもらいたいと願う職人も少なくないようです。

ただ、一緒に行く人に合わせることが必要になる場合もあります。例えば、接待の際に相手が素手で食べている場合は、合わせた方が距離が近くなるかもしれません。一方で、家族や友達など気が置けない人とは、自分がおいしく感じられる方でよいでしょう。

さらに、基本的には素手で食べる人でも、ネタによって使い分けることもできます。例えば、穴子などツメ(穴子の煮汁やしょうゆ、砂糖などを煮詰めたたれ)が塗ってあるものは、小皿で出てくる場合があります。これは後に続くすしに味や色を残さないためです。

べたついた手を拭いて、おしぼりを過度に汚すことのないよう、箸を使うのも一つの配慮といえます。両方を使い分けながら、おいしくいただくのが現代の食べ方だと思います」

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齊木由香(さいき・ゆか)

日本礼法教授、和文化研究家、着付師

旧酒蔵家出身で、幼少期から「新年のあいさつ」などの年間行事で和装を着用し、着物に親しむ。大妻女子大学で着物を生地から製作するなど、日本文化における衣食住について研究。2002年に芸能プロダクションによる約4000人のオーディションを勝ち抜き、テレビドラマやCM、映画などに多数出演。ドラマで和装を着用した経験を生かし“魅せる着物”を提案する。保有資格は「民族衣装文化普及協会認定着物着付師範」「日本礼法教授」「食生活アドバイザー」「秘書検定1級」「英語検定2級」など。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yukasaiki)。

コメント

1件のコメント

  1. コロナの今、素手はリスク高いだろw