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44歳ひきこもり息子への相続、「障害者手帳」が解消する相続税の懸念

障害者手帳取得で相続税は?

 ある程度の状況が把握できたので、筆者は父親に説明しました。

「ご次男は障害者手帳をお持ちなので『相続税の障害者控除』というものが受けられるでしょう。簡単に言うと、相続税の申告時に手続きをすることによって『相続税が安くなる』というものです」

「それは知りませんでした。一体どのくらい安くなるのですか?」

「そうですね。大まかな金額になりますが、ちょっと計算してみましょうか」

「はい。お願いします」

 筆者はまず、父親の平均余命を調べました。75歳男性の平均余命は約13年。よって、今から13年後に相続が発生するものとしました。

 筆者は、紙に計算式を書きながら父親に説明をしました。

「『相続税の障害者控除』は相続人が85歳に達するまでに、相続発生からの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除される仕組みです。仮に、ご次男が13年後の57歳で相続が発生したものとします。障害者手帳の級は3級なので、相続税の障害者控除額はこのように計算できます」

85歳-57歳=28年(歳)
28年×10万円=280万円

 金額を見た父親は顔を曇らせました。

「280万円ですか…あまり大きな金額ではありませんね」

「この280万円という金額は相続財産の金額から引くのではなく、相続税額から直接引くものです。そのため、この金額を相続財産に換算する必要があります」

 筆者はそう言ってスマホを操作し、画面に相続税の早見表を出しました。

「早見表なので正確な金額ではありませんが、基礎控除分も含めて相続額が6500万円くらいまでなら相続税はかからないと思われます」

「そうなんですか! 結構な金額になりますね。これなら、相続税もそんなに心配しなくても大丈夫そうです」

 筆者は念のため父親に告げました。

「今回の話は、あくまでもざっくりとしたものになります。詳しい税金額や生前対策などは税理士の先生にご相談くださいね」

「はい、分かりました。今日は、障害者控除を知ることができただけでも十分です。どうもありがとうございました」

 父親は安堵(あんど)の表情を浮かべていました。

 相続人に障害のある人がいる場合、条件を満たせば相続税の障害者控除を受けることができます。ひきこもりのお子さんの中には、精神疾患を発症しているケースも見受けられます。相続税の心配をしているご家庭であれば、少なくとも障害者手帳(精神疾患の場合は精神障害者保健福祉手帳)を取得しておいた方が望ましいと筆者は考えています。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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