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悩ましき現代社会の寵児「うつ」をサバイバルする

抗うつ薬による完治は「虚言」だったのか

 毎年3月を政府は「自殺予防月間」として、自殺を誘引するうつ治療を奨励しています。どうして3月なのかは、いわゆる「木の芽時」に精神錯乱が起きやすいという根拠のないイメージに過ぎません。警察庁の統計を見ても、春に自殺者が突出している事実はなく、むしろ秋から冬にかけて自殺者が多発したり、またある年は、夏場が自殺の季節だったりしています。

 つまり、北欧のように緯度が高いわけではない、地勢的には温暖な日本では「うつの季節」は特定できないのです。年間3万人という数字も警察が自殺とファイリングした数に過ぎず、うつが誘因かどうかの因果関係は不明ですが、年間10万人近くが「失踪」、つまり理由もわからないまま、家族や会社などそれまで属していた共同体から姿を消す「行方不明者(災害などの場合と区別するために特異行方不明者が正式な名称)」になっています。その多くは、誰にも発見されず既に自殺していると推測されます。

 さらに今後、年間30万人ベースで誰にも看取られず、マンションやアパートの個室で死んでいく「孤独死」が顕在化するとも言われています。この「孤独死」は、緩慢な自殺と考えられています。いわば政令指定都市の基準となる人口と、ほぼ半数に近いレベルの人が1年間で病死や事故死、老衰死ではない「自殺及び不自然な死に方」をしていくのが日本の未来予想図なのです。

 その大半の「犯人」を、うつとする、医療、政府の取り組みはあまりにも非現実的です。確かにうつは、自殺を実行に移す「トリガー」にはなるかもしれません。だからといって、うつを治せば自殺や不自然な死が減少するという考え方は、楽観的過ぎるというより、木を見て森を見ない医療であり、政府の怠慢でしかないと私は思います。

 うつの自殺者が年間3万人を切ったと、政府やマスコミはあたかも、うつの「終結宣言」のような安堵感をアピールしています。しかし、うつは細菌による疾病ではないものの、日本社会でパンデミック(大流行)しています。それにもかかわらず、いまだにうつの特効薬はありません。かつて精神科医たちは胸を張って「抗うつ薬を服用していれば半年程度でうつは完治する」と主張しましたが、10年、20年とうつに苦しんでいる人たちの存在がマジョリティーになるにつれ、それらは精神科医の「虚言」であったことがはっきりしています。

 かえって抗うつ薬による副作用で、暴力性や衝動性が異常に高じたり、妊産婦が服用した場合、胎児に障害が生じる危険性が世界中で警告されています。日本はその点について、精神医療界もマスコミもなぜか沈黙を貫いています。

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上野玲(うえの・れい)

フリージャーナリスト

1962年東京生まれ。早稲田大学文学部卒。著書に「ルポ がんの時代 心のケア」(岩波書店)、「うつは薬では治らない」(文春新書)など。

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