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「有給取りやすく」首相発言話題に、「有給休暇」の意味やコロナ感染時の扱いは?

安倍晋三首相が休校要請をした際、「有給休暇を取りやすいようお願いする」と発言したことが話題に。有給休暇の本来の意味を社会保険労務士に聞きました。

有給休暇の本来の意味とは?
有給休暇の本来の意味とは?

 新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一つとして、安倍晋三首相が2月末、全国の小中高校の休校要請をしましたが、保護者支援として企業側に「有給休暇を取りやすいよう対応をお願いする」と発言したことが話題になりました。これについてSNS上では、「有給休暇は休みたいときに使うもの」「有給休暇の意味を知ってる?」といった声が上がっています。

 有給休暇の本来の意味や、もし使い切ってしまったらどうなるのかなどを、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

有給扱い特別休暇を付与した会社も

Q.有給休暇とは本来、どういう趣旨のものでしょうか。

木村さん「年次有給休暇は『労働者の心と身体の疲労を回復させ、労働力の維持と増進を図るとともに、ゆとりある生活を営むこと』を目的として設けられた制度で、公休日とは別に設定され、休暇の取得中における賃金は保障されています。

その取得方法は原則、労働者から会社に対して時季を指定して請求します。なお、有給休暇を取得できる対象の労働者や付与日数などは労働基準法39条で定められています」

Q.臨時休校になった学校に通う子どもの面倒を見るために会社を休む場合、会社が特別な配慮をしないとしたら、有休を使わざるを得ないのでしょうか。使わざるを得ない場合、有休の残り日数によっては、完全に消化してしまう可能性もあります。その後の休みは通常、どのような扱いになるのでしょうか。

木村さん「安倍晋三首相がマスコミなどを通じて、新型コロナウイルス感染拡大防止のため全国の学校に休校を要請するとともに、企業側に『会社を休む保護者への配慮として有給休暇の取得を容易にすることをお願いした』旨が報じられています。

今回の要請を受けて、該当する従業員に対して急きょ、有給扱いの特別休暇を付与する取り組みを行った会社もありますが、そもそも、会社が特別休暇の制度を設けることは法律上の義務ではないため、特別な配慮をしない会社もあるでしょう。

その場合は一般的に、まず残っている有休を消化し、その後、休みが続く場合は欠勤となります。欠勤扱いになると、会社によっては欠勤日に応じて賃金がカットされることがあります。ただし、カット率は会社によって違いがあり、その計算方法は就業規則等で定められています。

中には、『有休を使わないで取っておきたい』と考える従業員もいるでしょうが、その場合は最初から欠勤扱いとなり、給料が減少することがあるので、あらかじめ就業規則を確認しておくことが必要です」

Q.今回、通常の有休とは別の有休を認めて給料全額を支払った企業には、国が助成金を出すことになりました。ただ、この助成金は1人1日8330円の上限があります。差額は企業負担で、利用を控える企業が出る恐れはないでしょうか。

木村さん「会社側が対象の従業員に対して特別の有休を認めることが義務ではなく、『お願いベース』になっているため、制度を取り入れるか否かは会社の判断によります。その上で、特別の有休を与え、その間の賃金を全額支払うことは会社にとって、もろもろの面で負担が大きく、その結果利用を控えるケースが出てくる可能性があります。

その理由としては(1)日給ベースで換算して8330円以上の該当従業員がいた場合、給料の差額を会社が負担しなければならない(2)特別有休分の給料は、いったん会社の立て替え払いとなる。助成金の支払いまでは時間差があり、特に対象者が多い会社では負担になる(3)助成金の請求手続き事務が煩雑となること――が挙げられます」

Q.国は「発熱などの風邪症状が出た場合、仕事を休んでほしい」と呼びかけています。軽い症状であれば風邪薬を飲んで出勤しようとする人もいると思われますが、「国が呼びかけているから出勤しない」と会社に申し出た場合、休みは一般的にどのような扱いになるでしょうか。

木村さん「従業員が国の呼びかけに従って自主的に会社を休む場合、現状では新型コロナウイルスに感染しているのか否かは不明であり、その診断もなされていない状態であるため、感染が確認されない限りは病気による欠勤扱いとなります。

しかし、欠勤となると該当日数分の給料が減額されることもあり、一般的には有休の残日数があれば、後日有休に振り替えることが多いと思われます。また、『国の呼びかけに従った』という理由で休んだ場合、会社側は労働基準法でいう『使用者の責に帰すべき事由』に当たらず、会社に『休業手当』の支払い義務はありません。

休業手当については後で説明します」

Q.本人は「風邪症状があるが出勤する」と会社に申し出たものの、上司や会社側が周囲への感染の恐れを考えて「休むように」と指示した場合、休みの扱いはどのようになるのでしょうか。

木村さん「労働基準法26条では『使用者の責に帰すべき事由』があれば、会社が休業期間中の休業手当(平均賃金の60%以上)を支払うように定めています。

例えば、今回のように従業員が風邪の症状を申告し、会社が『感染の疑いがあるので大事を取って休んでほしい』と求めるケースでは、従業員が新型コロナウイルスに感染しているとは診断されていないため、会社の都合で休職を指示したと判断されます。その場合は、休み上は欠勤扱いでも従業員に休業手当を支払わなければなりません」

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木村政美(きむら・まさみ)

行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

1963年生まれ。専門学校卒業後、旅行会社、セミナー運営会社、生命保険会社営業職などを経て、2004年に「きむらオフィス」開業。近年は特にコンサルティング、講師、執筆活動に力を入れており、講師実績は延べ700件以上(2019年現在)。演題は労務管理全般、「士業のための講師術」など。きむらオフィス(http://kimura-office.p-kit.com/)。

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