地方自治に求められるのは「情熱」か「冷静な判断力」か
職員が失敗しても、責任を取るのは首長
かつて存在した民社党という政党に、春日一幸さんという名物委員長がいました。彼の口癖は「理屈は貨車で後からやってくる」。政治は理屈では動かないということをズバリと突いており、街づくりにおいてもそのまま当てはまる言葉だと私は思っています。
冒頭で紹介したウェーバーの言葉を踏まえれば、「理屈」を「冷静な判断力」と言い換えてもよいでしょう。首長に燃えるような情熱が確固としてあることが見えれば、「冷静な判断力」は後からいくらでもやってくるのです。「冷静な判断力」とは、やる気に燃えた有能な職員たちを指します。登るのが不可能と思われるような急斜面でも、有能な職員たちでチームを組めば、確実に困難な事務手続きを遂行し、課題を処理することができます。
彼らから「冷静な判断力」を引き出すのは首長の情熱です。加えて、もう一つ決定的な要因があります。それは、仮に彼らが失敗しても、首長が責任を取るという信頼感です。これさえあれば「冷静な判断力」はさらに加速し、フル回転し、失敗することはまずないでしょう。
大企業のトップに体当たりで挑む
私の実例を再び紹介しましょう。それは「富士フイルム先進研究所」の誘致事業です。進出の最終決定は2004年12月に下されたにもかかわらず、操業は2006年4月からといいます。短すぎる期間。私は自分の首をかけてこの事業に取り組むことに決めました。「町の発展のために研究所は不可欠だ」という情熱を胸に、大企業のトップに体当たりで挑んだのです。
この行動は有能な職員たちを喚起しました。誘致の担当チームのメンバーは冷静な計画に基づいて、地権者と交渉し、極めて短期間で話をまとめたのです。これには、町長である私自身が最も驚き、同時に、「冷静な判断力」の大切さを思い知った瞬間でした。
首長は、街づくりの「船長」です。船長の必須条件は「情熱」と、それに裏打ちされた結果責任を負う覚悟です。そうすれば、「冷静な判断力」を持ち合わせた有能な職員たちが困難な作業をやり切り、奇跡を起こすことができるのです。
(日本大学総合科学研究所教授 露木順一)
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