頭部打撲 頭を打ったら何科に行けばいいの?【ぼくの小児クリニックにようこそ】
千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

今日もまた、ちょっとした事故のお子さんが受診しました。1歳10カ月の子です。
「先生、大変です。ソファから転げ落ちて頭をゴツンと打ってしまったんです。総合病院の脳外科に行ったら、うちは子どもは診られないから、松永先生のクリニックに行くように指示されました」
お子さんは、お母さんにぴったりと抱きついています。回り込んで見ると、顔色は悪くないようです。
放射線の感受性が高い子どもの脳
「落ちた高さはどのくらいですか?」
「…そうですねえ、50センチくらいだと思います」
「すぐに泣きましたか?」
「ええ、大泣きです」
「顔色は悪くなりませんでしたか? 嘔吐(おうと)はありませんでしたか?」
「大丈夫です」
私は子どもの頭を触ってみましたが、痛がるそぶりはありません。たんこぶ(皮下血腫)もできていません。
「2歳未満のお子さんにとって、90センチ以上の落下はハイリスクとされているんです。高さが50センチだったので、大丈夫のようですから様子を見ましょう」
「エックス線検査などは必要ないのでしょうか?」
確かに、保護者にしてみれば心配でしょう。しかし、現在の医療では、安易に頭部エックス線CT(コンピューター断層撮影)は撮りません。私が研修医の頃は、頭を打って受診する子は結構CTを撮っていました。しかし現在では、そうした検査は「過剰検査」と考えられています。いくら性能がよくなったとはいえ、CTの被ばく量はやはり大きいものがあります。
おまけに、子どもの脳は成人に比べて放射線の感受性が高いことが知られています。日本の医療機関は世界的にもCTの保有台数が大変多く、日本人は医療被ばくが多いことは間違いありません。
では、顔色が悪かったり、嘔吐があったりした場合、それは脳に何か損傷があるということでしょうか。そうとは限りません。一番多いのは「脳振とう」です。これは安静にしていれば治ります。では、それ以上のけがとは?
人間の脳は「硬膜(こうまく)」という、しっかりとした膜に包まれています。頭の骨と硬膜の間に出血が起きると「硬膜外血腫」、脳と硬膜の間に出血が起きると「硬膜下血腫」という状態になります。いずれも血腫が脳を圧迫しますので、激しい頭痛や繰り返す嘔吐、意識障害が見られます。血腫が拡大していけば「脳ヘルニア」という状態に陥り、生命に関わります。治療は当然、頭を開く外科手術が必要になります。
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