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異物誤飲 子どもの周りには危険がいっぱい!【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

誤飲の恐れのある物はいろいろ
誤飲の恐れのある物はいろいろ

 新学期が始まりましたね。それとともに、水の事故のニュースも減っているようです。しかし、小児クリニックには1年を通して、小さな事故の患者が受診します。そのうちで最も多いのは「異物誤飲」です。今日もまた、そんな親子が受診しました。

胃に落ちたものは便として排出

「先生、うちの子、これと同じ形のおもちゃで遊んでいたんです。目を離した隙に、口に入れてしまって…飲んでしまったのではないでしょうか」

 1センチ弱のプラスチックのビーズ玉です。お子さんは2歳。誤飲をしてしまう、最もありがちな年齢です。

「飲んだ瞬間を見たわけではありませんね?」

「ええ、でも口には持っていっていました」

 本来、こうした誤飲の可能性のある小さな物で遊ぶことは親が禁止すべきですが、私は話を進めました。

「人間の消化管で一番細いのは食道です。引っ掛かるとしたら食道なんです。1センチ未満なら、まず胃に落ちているでしょう。それに、これは金属ではありませんから、エックス線では写りません。確実に胃に落ちているかどうか知るためには、バリウムを食道に流す『食道造影』という検査が必要です。結構被ばくしますので、やめておいた方がいいですね」

「胃に落ちたら、どうなるんですか。どこかに詰まったりしないんですか」

「それがしないんです。胃に落ちた物は必ず便として排出されます。だから様子を見ていいですよ」

 食道に引っ掛かる異物の大きさは、コインの大きさです。10円玉や100円玉(直径22~23ミリ程度)を飲み込むと、ほぼ必ず食道に引っ掛かります。「食道異物」は、まれに親が気付いていないことがあります。

 食道に引っ掛かったコインは、徐々に食道の粘膜やその下の筋層に食い込み、数日から1週間くらいすると、潰瘍を形成して食道に穴が開きます。こうなると、発熱・胸痛・呼吸困難などを伴う「縦隔炎(じゅうかくえん)」という状態になりますから、長期の入院が必要になります。

 そのため、食道異物は速やかに摘出するか、胃に落としてやる必要があります。摘出には、バルーン(風船)と呼ばれるシリコンチューブを使います。お子さんには、麻酔はかけません。鼻からチューブを入れて、先端をコインの向こう側まで進めます。そこでバルーンを膨らませます。この状態でバルーンを引っ張ると、コインが口から出てくるわけです。

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松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

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