酢締めでも食中毒に…「サバ」の生食文化が九州北部で成り立つ理由
「あたりやすい」「日持ちしない」といわれるサバですが、福岡県など九州北部では生でサバを食べる文化があります。なぜ、生で食べても大丈夫なのでしょうか。

「日持ちしない」「あたりやすい」といわれるサバですが、酢で締めてサバずしにすると年中楽しめます。酢の防腐効果のおかげと思われますが、実はその酢も万能ではないようです。酢でも食中毒を完全に防げないとされる一方で、福岡県など九州北部では生でサバを食べる文化があります。なぜ生でサバを食べても大丈夫なのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。
もともといた菌は酢でも減らない
Q.サバが日持ちしない理由を教えてください。
関口さん「サバの内臓や筋肉には酵素が多く含まれ、死後硬直の後、自己消化を起こして分解されていきます。傷みやすいのはそのためです。また、ヒスチジンというアミノ酸が多く含まれ、死後時間がたつと、ヒスタミン生成菌という細菌によって、ヒスチジンが『ヒスタミン』というアレルギー物質になることから、アレルギー様食中毒の原因となる場合があります。『サバはあたりやすい』といわれるのは、傷みやすいだけでなく、ヒスタミンが多くなることも理由の一つです」
Q.酢で締めると日持ちする理由は。どのくらい、食べられる時間が延びるのでしょうか。
関口さん「酢には細菌の増殖を抑える静菌効果があります。締め方にもよりますが、通常、当日に消費するものが翌日、翌々日までいただける程度の効果は期待できます。また、塩を併用すればさらに防腐効果が高まるので、塩分濃度次第では1週間以上の保存も可能です」
Q.酢でも完全に食中毒を防げないのはなぜでしょうか。
関口さん「酢によって菌の繁殖を防ぐ効果は期待できますが、もともと付着していた菌の量が減るわけではありません。包丁やまな板に菌が付着していたり、サバの鮮度が落ちて菌量が多くなったりしていれば、酢締めしても食中毒を起こす可能性はあります。
また、サバの内臓にはアニサキスという寄生虫がいて、サバが死後硬直すると内臓から身の部分にまで侵入することがあります。酢ではアニサキスを死滅させることができず、激しい腹痛や吐き気、嘔吐(おうと)を引き起こすアニサキス症を発症することがあります。予防には、マイナス20度で24時間以上冷凍処理するか、中心温度70度以上で加熱することが必要です」
Q.市販のサバずしは、どうやって食中毒を防いでいるのでしょうか。
関口さん「サバの食中毒の原因となるアニサキスを死滅させるために、マイナス20度で24時間凍結処理を行ったサバを使用すること、あるいはアニサキスの心配が少ないサバを使うこと、また、酢や塩の防腐効果を用いていることが多いと思われます」
Q.九州北部で、サバを生で食べても食中毒にならないとされるのはなぜでしょうか。
関口さん「九州北部から日本海側で取れるサバに寄生するアニサキスは、内臓にとどまって身の方へほとんど侵入することがない種類なので、劇症型アニサキス症を起こす心配が少ないと考えられています。東京都健康安全研究センターによると、日本近海のサバは、主に九州(東部)から三陸沖に分布する太平洋系群、東シナ海から日本海沿岸に分布する対馬暖流系群に別れるそうで、九州北部など日本海産のサバに寄生するアニサキスの80%は、劇症型の食中毒を起こさない種類だということです」
Q.他に、サバを生で食べる習慣がある地域はあるのでしょうか。
関口さん「先述したように、日本海沿岸分布のサバはアニサキス症の心配が少ないため、九州以外に西日本でも生食しているようです。もっとも、日本海産のサバもアニサキス症の心配がゼロではないので、内臓の処理の仕方など、信頼できるお店で食べた方がよいです」
Q.サバを食べる際の注意点を教えてください。
関口さん「サバについては、これまで述べたように2つの食中毒に注意する必要があります。1つはヒスタミン中毒で、鮮度が落ちるほどヒスチジンがヒスタミンになっていくため、鮮度の良いうちに食べることが大切です。2つ目はアニサキス症ですが、こちらも死後硬直後からアニサキスの移動が始まるので、できれば、鮮度の良いうちに内臓を取り除いたり、加熱をしたり、しっかり冷凍したりして食べると安心できます」
(オトナンサー編集部)
コメント