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牛乳にサバ缶、コーラまで…食品などの値上げが相次いでいる背景は?

食品を中心とした商品やサービスの値上げが相次いでいます。企業側は人件費、物流費の高騰を主な理由としていますが、背景には何があるのでしょうか。

4月1日に値上がりした主な商品
4月1日に値上がりした主な商品

 食品を中心とした商品やサービスの値上げが相次いでいます。今年10月に施行予定の、消費税率10%への引き上げと合わせ、家計を圧迫することが予想されます。企業側は人件費、物流費の高騰を主な理由としていますが、その背景には何があるのでしょうか。流通アナリストの渡辺広明さんに聞きました。

限界に達した低価格販売路線

Q.さまざまな商品の値上げが相次いでいますが、なぜ、この時期に実施するのでしょうか。

渡辺さん「企業側がこれまで行ってきた低価格販売が限界に達していて、従来の価格ではコストを吸収しきれないのでしょう。

とにかく、今までの価格が安すぎました。これは、デフレが深刻化した時期に、企業側が商品やサービスの本来の価値を度外視し、価格を下げすぎたことが影響しています。例えば、外食業界では一時期、ハンバーガーを59円(2002年)、牛丼を250円(2010年)で提供していましたが、今では考えられないくらい安すぎます。

当時、各業界で安売りが流行し、薄利多売のビジネスモデルが確立されました。消費者が恩恵を受けた部分もありましたが、何でも安く手に入るというイメージが刷り込まれました」

Q.最近の値上げは、各社が足並みをそろえている印象です。

渡辺さん「値上げをすると商品が売れなくなりますから、業界内にライバルが多ければ多いほど値上げに踏み切れません。通常は業界内でトップクラスの企業が値上げをすれば、それに合わせて他社も順次値上げを実施するケースが多いのですが、今回はほぼ一斉に値上げした印象が強いです。

企業側は、最初に値上げを実施したライバルに対し、『今まで耐えられなかったんだ、ありがとう。これで俺たちも値上げできる』という気持ちなのではないでしょうか」

Q.近年では、物流費の高騰も叫ばれるようになっています。

渡辺さん「トラックドライバーが圧倒的に不足しているためです。人を集めるために人件費を上げなければならず、物流費にもしわ寄せがきています。日々、外国人労働者の受け入れが議論されていますが、彼らをトラックドライバーとして採用するのは、運転免許などの関係で恐らく現状では難しいでしょう。コンビニエンスストアのように外国人を積極的に採用できないので、人件費は高騰する一方です。

2017年に宅配便の値上げが話題となりましたが、そもそも、世界トップクラスのサービスを比較的安価な価格で提供し続けてきたことが要因です」

Q.食品の場合、量を減らして価格を維持することもできると思いますが。

渡辺さん「商品にもよると思います。高齢化が進んでいるので、ポテトチップスなどのお菓子は量を減らして販売しても問題ないのではないでしょうか。ないとは思いますが、増量して値上げされたら嫌でしょう」

Q.人件費を抑えるための有効な対策はあるのでしょうか。

渡辺さん「やはり、工場などでAIやIoTを駆使して自動化を進め、人手を減らしていくことではないでしょうか。自動化が進まないうちは、人件費は上がらざるを得ないでしょう。

アパレルメーカーのように海外で製造する方法もありますが、これまでの主要な製造拠点だった中国やベトナムでも人件費が上がり続けており、ミャンマーやバングラデシュなどに拠点を移しています。今後、中長期的に低コストで製造し続けるのは難しいかもしれません」

Q.物の値段が上がる中、どのような企業が強いのでしょうか。

渡辺さん「ユニクロやニトリのように、商品を自社で製造・販売できる企業は強いです。また、コンビニエンスストア各社も、総菜や弁当などいわゆる『中食』と呼ばれるカテゴリーの商品開発に注力しており、値段も手頃です。これらの企業は『いいものを適正な価格で売る』というスタンスで展開しており、単なる安売りとは無縁で、利益向上や顧客獲得に成功しています。

一方、NB(ナショナルブランド)と呼ばれる大手メーカーの商品は、定番商品しか売れなくなって苦戦しています。大手メーカーも、ここ数年は新ブランドを立ち上げてもなかなか成功しないため、従来のブランドから派生した商品を販売することで、コストをかけずに価格帯を維持しようとしています」

Q.商品を販売する小売店も大変なのではないでしょうか。

渡辺さん「一部スーパーでは『EDLP(エブリデー・ロープライス)』という取り組みを行っています。これは、『いつ来店しても常に手頃な価格で販売する』という意味です。商品を大量に仕入れ、1個当たりの単価を引き下げることなどで実現しています。特定の日に一部商品を値下げする従来の特売とは違い、安定して客を呼び込むことができます」

Q.値上げにより、今後はどのように変化していくと思いますか。

渡辺さん「値上げで商品が適正な価格で販売されるようになり、デフレで行き過ぎた安売りが是正されてくるのではないかと思われます」

Q.消費税が10%になったら、さらに値上げに踏み切る企業は増えると思いますか。

渡辺さん「増税による値上げは恐らくないと思います。消費税が10%になったら、例えば、100円の商品が税込みで110円です。8%のときに比べ、税込み価格を計算しやすい分、物の値段が上がったと実感しやすくなりますから、値上げをしなくても商品が売れなくなるリスクはあります」

(オトナンサー編集部)

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渡辺広明(わたなべ・ひろあき)

流通アナリスト、マーケティングアナリスト、コンビニジャーナリスト

1967年4月24日生まれ。浜松市出身。東洋大学法学部経営法学科卒業後、ローソン入社。22年勤務し、店長、スーパーバイザーを経てコンビニバイヤーを16年経験、約700品の商品開発を行う。同社退社後、pdc、TBCグループを経て、2019年3月、やらまいかマーケティング(https://www.yaramaikahw.com/)を設立。同時期に芸能事務所オスカープロモーションに移籍し、オフラインサロン「流通未来研究所」を開設。テレビ、ラジオなどで幅広く活動する。著書に「コンビニの傘はなぜ大きくなったのか」(グーテンブック)「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)

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