給食後も牛乳を飲まされ…学校の過剰な「完食指導」はなぜ起きる? 会食恐怖症に発展も…
小中学校の児童生徒が、教員から給食を残さず食べるよう指導され、体調を崩すトラブルが増えているといわれます。
小中学校の児童生徒が、給食を残さず食べるよう教員に指導される「完食指導」がネット上で話題になっています。文部科学省が小中学校に指導を求めているわけではありませんが、学校の過剰な完食指導をきっかけに、体調を崩したり不登校になったりする事例が増えているといわれます。さらに、それが原因で大人になって精神疾患になるケースもあるそうです。過剰な完食指導などについて相談を受けている団体に聞きました。
過剰な完食指導は体罰
取材したのは、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会(東京都渋谷区)です。「会食恐怖症」とは、人前でご飯を食べることに不安や恐怖感を抱き、吐き気や目まいを訴えるという精神疾患の一つで、過剰な完食指導のトラウマが主な原因だそうです。協会代表の山口健太さんに聞きました。
Q.完食指導によって不登校や体調を崩す事例が増えているのですか。
山口さん「過剰な完食指導に関する相談は保護者からが多く、1日10件近く届くこともあります。2017年12月ごろから完食指導に関する相談を受けていますが、2018年6月からは前年同月比でほぼ倍増しています。6月初めに『給食で牛乳を強要されてPTSD 静岡県で訴訟に発展』という記事が新聞に載ったことが影響しているのかもしれません」
Q.具体的には、どのような相談があるのですか。
山口さん「例えば、自閉症の小学1年の子どもがいる保護者の声です。給食が苦手で、牛乳を飲みきれなかった日は、給食後の5時間目の授業で牛乳を最後まで飲まされていました。下校の時間になっても『牛乳を飲みきれなかったら下校できない』と教員に言われ、後日、教育委員会へ相談して、学期途中で転校したそうです」
Q.そもそも、完食指導によるトラブルはなぜ発生するのですか。
山口さん「協会へ相談してきた学校の先生の中には、『校長先生が残飯を減らせというので、残さず食べさせないといけない』と話す人もいます。ですから、先生個人を一方的に敵にするのも違うと思います。要は文化的な問題なのです」
Q.完食指導は良くないことと言えますか。
山口さん「完食指導自体は悪いことではないと思います。なぜなら『食材を大切にして残さず食べる』というのは、日本ならではの大切にすべき文化ですし、当然、残飯などは少ない方がよいわけですから。
ただ、議論が必要なのは“過剰な”完食指導になっていないかという点です。『残さず食べましょう』と呼びかけるのはよいのですが、給食時間が過ぎても最後まで食べさせるという過剰な完食指導は、もはや体罰と同じです」
Q.嫌いな食材・料理が給食に出て、食べられない場合はどう指導すべきですか。
山口さん「『一口だけでも食べてみたら?』という提案は大切ですが、無理して食べさせるべきではありません。また、給食の終了時間になったら、居残りさせず片付けるべきです。なぜなら、無理して食べさせればネガティブな記憶として残り、さらに食べなくなる可能性があるからです」
Q.完食指導が過剰になってしまう背景は。
山口さん「『食事指導(給食指導)』について、適切な指導方法が確立されていないからです。指導法が分からないから、教員は『残さず食べろ!』と強制するしかない、というわけです」
Q.なぜ、最近になって過剰な完食指導の実態が顕在化してきたのでしょうか。
山口さん「現在の教員の指導方法が、以前よりも強引になったとは思いません。顕在化してきた理由は、昔と価値観が変わってきたからだと思います。例えば、近年、学校での体罰が厳禁になったり、クラブ活動の活動内容の見直しが行われたりしています。この流れで、給食の指導方法の問題点が浮上してきたのでしょう」
Q.完食指導によるトラブルを防ぐために、学校や保護者ができることは何ですか。
山口さん「学校では、栄養面だけではなく食卓でのコミュニケーションを中心にした食事指導の研修を取り入れたり、そういう場面ではどうするかなどをクラス全体で意思疎通できる機会を設けたりすべきです。保護者は、まず自宅で『過剰な完食指導』をしないこと。自宅の食卓の雰囲気を明るくして、食卓を安心した空気で満たすことも大切です」
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