公務員男性から性的被害を受けた29歳女性、泣き寝入りせず「慰謝料」を手にした行動力(下)
泣き寝入りするケースが少なくない中…
2つ目は「慰謝料に引っ越し費用などを上乗せすること」です。
事件当日の男の汗や体液は、ベッドシーツなどあらゆる場所に付着していたはずです。もちろん、洗濯できるものは洗濯しましたが、唯さんの記憶の中の「男のにおい」はいつまでも消えませんでした。そのにおいで吐き気を催すことも一度や二度ではなかったといいます。
そのため、唯さんが今の家に住み、家財などを使い続けることは精神衛生上耐えられませんでした。別の市町村へ引っ越し、家財などをすべて買い替えることを決めたのですが、引っ越し費用(35万円)や家財などの購入費(37万円)がかかりました。これらの費用(計72万円)を慰謝料に上乗せし、唯さんの口座に振り込むよう求めたのです。
3つ目は「セカンドレイプの禁止」です。被害者が加害者の責任を追及する過程で、加害者の言動によって精神的苦痛を強いられることをセカンドレイプと呼びます。例えば、男は「あれは酒の勢いで『事故』のようなものだろ」などと暴言を吐き、唯さんの傷口に塩を塗ろうとすることが予想されます。そのため、手紙の中で「慰謝料と直接関係のない反論をしてきた場合、一切聞くつもりはない。即刻、警察に申し出る」とくぎを刺しておいたのです。
4つ目は「原状回復できない現実」ですが、唯さんが本当に望んでいるのは慰謝料よりも身体的・精神的苦痛の原状回復です。精神的苦痛は上記の通りですが、身体的苦痛も深刻です。唯さんは事件の翌日、婦人科病院へ駆け込み、局部の洗浄、薬の投与によるバイ菌の除去などの治療を施されたそうです。
さらに、数日が経過すると局部の腫れや腹痛などの症状が出てきました。不快な症状は事件の夜を否応なく思い起こさせた、そうした精神的苦痛も慰謝料に含めた、と唯さんは言います。
5つ目は「守秘義務との引き換え」です。男を徹底的にたたきのめすのなら、慰謝料を受け取った上で、懲戒手続を行うという手もあります。しかし、唯さんが望んでいるのは慰謝料だけ。慰謝料さえ支払わせれば、一刻も早く新天地で再出発したい、あの男を忘れたい、ということが最優先でした。そのため、男が慰謝料を支払えば、今回の事件について一切口外しないと約束することを手紙に書き添えたのです。
さて、男は慰謝料を支払ったのか。結末は実にあっけないものでした。手紙を送って3日後、唯さんの口座に男の名前で請求通り100万円の慰謝料が振り込まれてきたそうです。男は失職して生活できなくなるのは避けたということなのでしょう。私はホッと安心しました。そして、唯さんは勇気を出して行動してよかったと心底思いました。
通常、性暴力を受けた被害者は加害者の顔も見たくないし、声も聞きたくない。恐怖心も残っています。私がこれまで相談を受けた性犯罪被害の相談の中でも、結果的に泣き寝入りするケースも少なくありませんでした。しかし、だからといって今回のような加害者を放置し、何のとがめも責任も受けさせないまま放置したらどうなるか。男はきっとつけ上がり、似たような行動をするに違いありません。
女性を尾行して自宅を突き止め、力づくで押さえつけて欲望を満たそうとするでしょう。おまけに公務員は、組織が強力で上司に泣きつけば揉み消してくれる。そんなふうに味をしめて別の女性を毒牙にかけるはずです。第二、第三の被害者を防いだという意味でも、唯さんの行動力や使命感、正義感は称賛すべきことなのではないでしょうか。
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)


コメント