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「生理用ナプキン」の無償設置訴えた女性県議に殺害予告…他者見下し、生理の貧困に向き合えない“日本社会の弱さ”

三重県の女性県議会議員が生理用ナプキンの無償設置をSNS上で訴えたところ、殺害予告のメールが大量に届く事態となりました。この事例から見る、日本社会の問題点について、評論家が解説します。

生理用ナプキンの無償設置を訴えた女性県議に殺害予告のメールが届く事態に
生理用ナプキンの無償設置を訴えた女性県議に殺害予告のメールが届く事態に

 三重県の27歳の女性県議会議員が3月、市役所のトイレなどに「生理用ナプキンを置いてほしい」とSNS上で主張したところ、誹謗(ひぼう)中傷の意見が多く上がったほか、県議会事務局宛てに女性議員の殺害を予告するメールが大量に届く事態となりました。報道によると、女性議員はその後、警察署に被害届を提出したということです。

 評論家の真鍋厚さんはこの出来事について、2つの社会的な問題が潜んでいると述べています。真鍋さんが生理用品を巡る日本社会の問題点について、解説します。

「生理は個人が処理すべき」という価値観が根強い

 今回の生理用ナプキンを巡る出来事の経緯をおさらいしたいと思います。まず、三重県の27歳の女性県議が3月25日、「今日いきなり生理になって困った。用があって寄った津市役所のトイレにはナプキンは残念ながら配置されてなかった。家に帰るまでちゃんと対処できなかった。27歳でもこんなこと起こります」「トイレットペーパーみたいに、生理用ナプキンをどこでも置いてほしい。♯生理的現象の月経出血」とXに投稿しました。

 この投稿のインプレッション(ユーザーの画面にポストが表示された回数)は1800万を超え、大きな反響を呼びましたが、支持の声よりも否定的な意見が多数を占めました。主に「ナプキンの1枚や2枚くらい持ち歩け」「コンビニで買えばいい」「厚かましい」といった内容で、生理に伴う経血の処理は女性個人の問題であり、生理用ナプキンに税金を使うような公的な問題にするのは間違っているというものでした。

 さらに、この投稿の3日後、女性県議が県議会での一般質問で「包括的性教育」の必要性を訴える動画を引用しながら、「『生理は女の子のもの』という教育のあり方に疑問をずっと持ってきた。これが社会の無理解や偏見につながっているのではないか」とXに投稿したところ、「生理は女の子のものだろw」「当然男性の生理にも気を遣ってくれるんですよね」などとちゃかす返信が相次ぎました。

 そして、報道によると3月28日午後8時ごろから同月31日午後4時ごろまで、県議会事務局に同じメールアドレスから1分おきに、合計で約8000通の殺害予告のメールが届いたということです。

 また、東京都内の飲食店の店長が4月、SNS上で実施したアンケート結果を基に、店内トイレのアメニティーボックス内に綿棒や油取り紙などとともに生理用ナプキンを設置した様子を収めた画像をSNS上に投稿したところ、嫌がらせのようなコメントが寄せられるなど、さまざまな方面に火の粉が飛ぶ状況になりました。

 殺害予告に関しては、海外メディアにも取り上げられ、「何千もの女性蔑視のメッセージが寄せられた」「こうした男性優位の攻撃は、健康問題、働く母親への支援、性差別や性的暴力など、権利を求めて立ち上がる女性たちを特に標的にしている」などと報じられています。

 なぜ、このような事態になったのでしょうか。最初に思い浮かぶのは「お金をめぐる損得勘定」の先鋭化です。「公金チューチュー」というネットスラングが象徴的です。この言葉は、NPO法人などの民間組織や個人が、国や地方公共団体から「貧困対策」や「弱者救済」などの名目で補助金や助成金などを得ていること、またはそのような仕組みを表しています。ある種の利権として捉えているわけです。

 特に男性にとっては、純粋に損か得かの立場に立てば、自分が生活する上で生理用ナプキンは不要なため、それに税金が使われることは何のうまみもありません。そして、そこには投稿への反応に顕著なように、生理がプライベートな事柄であり、経血は個人が処理すべきものであり、自費で購入して対応するものという根強い価値観があります。

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真鍋厚(まなべ・あつし)

評論家・著述家

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。著書に「テロリスト・ワールド」(現代書館)、「不寛容という不安」(彩流社)、「山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義」(光文社新書)。

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