学校での「暴行動画」SNS投稿相次ぎ「人権侵害」と批判も…問題視する人に欠けている“決定的視点”
暴行動画がSNS上に投稿、拡散される要因について、評論家が解説します。

今年に入り、学校内で生徒が別の生徒を暴行する様子を撮影した動画がSNS上に投稿、拡散されるケースが相次いでおり、国や自治体が対応に追われる事態となっています。いじめの被害に関するヒアリングを行ったことがある評論家の真鍋厚さんは、「暴行動画の拡散により、関係者の人権が侵害されたり、誹謗(ひぼう)中傷されたりするのはあってはならないことですが、動画の拡散を止めることだけを考えていても、いじめの問題は解決できません」と話します。暴行動画がSNS上に投稿、拡散される要因や、いじめの解決に必要な取り組みなどについて、真鍋さんが解説します。
暴行動画の投稿に「人権侵害につながる」という批判も
栃木県内の県立高校で2025年12月に撮影された10秒ほどの動画が1月4日、暴露系アカウントによりSNS上で拡散され、批判が殺到しました。この動画には高校のトイレで、生徒が別の生徒の顔面を一方的に殴ったり、頭部を蹴ったりしている様子が収められていたからです。
SNS上では、動画を引用するなどして「学校はこいつを退学にしてほしいな」「こんなクズ共は許してはならない」などの投稿に多数の賛意が寄せられる一方で、「このような動画が流出することによって風評被害も含めた誹謗中傷などが拡大し、人権侵害につながる」という内容の批判も少なくありませんでした。
その後のメディアの報道によると、暴行した生徒は傷害の疑いで、2月5日付で書類送検されたということです。
また、福井県内の高校や大分市内の中学校などでも、生徒が別の生徒に暴行を加える事案があり、その暴力行為を撮影した動画がSNS上に相次いで投稿されているのが確認されました。
文部科学省は1月14日に全国の都道府県・政令市の教育長を集めた緊急のオンライン会議を開催。人権侵害につながりかねない動画や、誹謗中傷が投稿、拡散された場合の削除要請などの手段について、関係省庁で改めて普及啓発を図るとともに、教育委員会などから学校や保護者に周知することなどを訴えました。
SNSでの動画の投稿、拡散により、個人情報が半永久的に残る「デジタルタトゥー」などの問題が懸念されるという趣旨です。そのため、SNSでの投稿、拡散のリスクに関する教育を実施することも必要だと併せて指摘しています。
文科省のこうした対応について、すぐにSNSやニュースサイトのコメント欄で反発の声が上がりました。大方の意見は、「学校側がいじめを放置しているから、直接的な証拠である動画が投稿されているのでは」という内容でした。
SNS上の多くの暴行動画が被害者側によって投稿されたと断定することはできませんが、「学校側がいじめを放置しているから動画が投稿されている」という意見はかなり的を射ています。
なぜなら、いじめや虐待、パワハラなどの人権侵害に対して、被害者や関係者などが「警察や組織の対応が遅い」もしくは「対応に期待できない」と考えた場合、加害の状況を収めた動画や画像をSNS上で公開して「さらす」ことは、世論を味方につけて解決を図ろうとする上で合理的な方法だからです。
私はこうした行為について、自分の利益を侵害された者が、法の適正な手続きに従った国の機関による救済などが期待できない場合に、自力でその回復を図る「自力救済」の一種とみなしています。
もちろん、自力救済は法的な権利として認められているものではありません。しかし、学校などの「暴力が暴力として正しく認識されない」聖域をインパクトのある形で告発するためには、他に選択肢があまりないという現実的な問題があります。
少なくとも「さらす」ことによって、加害者が社会的な制裁を受けるだけでなく、一向に動こうとしない警察や学校の尻に火をつけることができます。今回の動画拡散騒動によって、明らかになったのは、皮肉なことに動画の投稿、拡散は「即効性がある」ということでした。
1月30日には、文科省が被害を受けた児童・生徒の安全確保と心身のケアとともに、加害側の児童・生徒に対する出席停止などを含めた毅然とした対応を通知しましたが、これも結局のところ、この一連の騒動によって「政府が重い腰を上げた」にすぎません。
逆に言えば、いじめや虐待、パワハラなどの人権侵害が適切に認識され、処理されていれば自力救済の出る幕はないのです。しかし、原因の多くは、不誠実な対応によって被害者の人権がないがしろにされていることにあります。
私は、これまで何度もいじめ被害にあった子の親から話を聞く機会がありましたが、皆さん、口をそろえて「学校側がまともに対応しない」「学校側がけんか両成敗のような話に持っていく」といった不満を述べていました。最終的に転校せざるを得ないケースも珍しくありません。



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