「生理用ナプキン」の無償設置訴えた女性県議に殺害予告…他者見下し、生理の貧困に向き合えない“日本社会の弱さ”
生理用品の無償提供を阻むのは「他者化」
近年、生理用品の無償提供に関する動きが、世界的な広がりを見せています。2020年にスコットランドで、世界で初めてタンポンやナプキンなどを無償で提供する法案が成立して以降、ニュージーランドやアメリカの20以上の州、フランス、台湾などで生理用品の無償提供が実現しています。学校での配布が多いですが、フランスでは対象年齢を25歳以下にするなど範囲を拡大しています。
これらの取り組みの背景には、「生理の貧困」(Period Poverty)があります。経済的な理由や教育の不足、ネグレクト(育児放棄)などさまざま事情により生理用品へのアクセスが困難な状況を指しており、社会全体の意識を変えていくのも含め、解決することが重要視されています。中でも、教育の問題を避けて通ることはできません。
日本財団が全国の17歳~19歳男女を対象に行った調査で、「生理について男性の家族・親戚と話すことに抵抗がある」と回答した女性が5割超、「生理について悩み事・困り事があっても、医療機関に行くことに抵抗がある」と回答した女性が約4割という結果が示しているように、既存の社会において生理のことが話しづらい、相談しづらいという状況があるからです(18歳意識調査「第44回-女性の生理-」要約版/2022年2月4日)。
生理用品の無償提供は、これらの社会課題に対する取り組みの一環に過ぎません。そもそも生理に関する基本的な知識すら、社会で広く共有されていないのが現実です。そのため、それを恥ずかしいもの、隠すべきものとしてますます硬直化していくことなります。しかも、この硬直化を助長していると考えられる深刻な要因として、「他者化」が挙げられます。
「他者化」とは、社会経済状況が不安定になり、アイデンティティーが危機に見舞われる中で、自分自身の文化や国、人種、ジェンダーなどを絶対的なものとして評価しやすくなる傾向のことです。自民族中心主義が分かりやすいですが、それ以外の人々を下位に位置付けることで、自分たちの優位性を保とうとします。
イギリスの社会学者のジョック・ヤングは、「他者化のプロセスでは、根拠が階級であれ、ジェンダー、人種、ナショナリティー、宗教であれ、自己に優越的な存在論が与えられており、自己は他者との対比で価値を維持され確実性を与えられている」と述べています(「後期近代の眩暈(めまい) 排除から過剰包摂へ」木下ちがや、中村好孝、丸山真央訳、青土社)。
よく見かけるネットスラングである「女さん」は、ヤングの「他者化」の典型例といえます。この言葉には、女性が男性よりも愚かで、感情的で、劣った存在であることが暗示されているからです。つまり、先述の引用を踏まえると、男性が女性との対比で価値を維持され確実性を与えられ、自尊心が強化されるということが起こり得るのです。
そのような人々にとって、生理を巡る女性からの訴えは、むしろ女性の本質的な欠点を表すものとなります。自己管理ができないことの決定的な証拠として取り扱われ、単なる怠惰な「他者」の問題として片付けることを後押しすることでしょう。下手をすれば、自分たちが配慮しなければならない社会の一員として認識していない可能性すらあります。
殺害予告まで出た、生理用ナプキンの無償設置を巡る炎上騒動は、日本社会がいまだに「生理の貧困」と向き合うことができずにいることが明らかになった事件であると同時に、「他者」を見下すことで不安で頼りない自己を乗り越えようとする志向の影響が垣間見える事件でもあったのです。「貧すれば鈍する」という私たちの社会の弱さが露呈したものといえるのではないでしょうか。
(評論家、著述家 真鍋厚)








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