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「知的障害」51歳ひきこもり兄を“どん底”から救った…48歳妹の“壮絶”な覚悟

妹の熱意が家族を動かす

 障害年金は、原則その障害で初めて病院を受診した日、いわゆる初診日から1年6カ月を経過した日以降に請求することになっています。しかし、これはあくまでも原則であって例外もあります。

 そこで、私は妹に次のような説明をしました。

「もしお兄さまが知的障害を証明する療育手帳が取得できれば、うつ病の初診日は出生日(誕生日)となります。すると明さんは障害基礎年金を請求することになります。初診日が出生日となるので、これから精神科や心療内科を初めて受診しても1年6カ月を経過するまで待つ必要はありません」

 私は説明を続けました。

「診断書を入手し、その他の必要書類がそろえば、すぐにでも障害基礎年金の請求ができます。とはいえ、1回目の受診でいきなり診断書を書いてもらうことは難しいので、何度か受診をした後に医師に事情を説明し、診断書の作成を依頼することになるでしょう」

 すると、妹は驚きを隠せない様子で言いました。

「本当にそのようなことが可能なのですか。軽度の知的障害とうつ病は別の病気なのではないでしょうか。うつ病でこれから初めて精神科を受診したら、そこが初診日になるのではないのでしょうか」

「確かにそう思われてしまうのも仕方がありません。ですが、知的障害が原因でうつ病を発症したという考え方が一般的であることから、これら2つは『同一疾病』とみなされています。ざっくり言うと、知的障害という道とうつ病という道が別々にあるわけではなく『1本の道でつながっている』といったイメージです。なお、お兄さまは知的障害では障害基礎年金の受給の可能性が低いかもしれないので、うつ病で請求することになるでしょう」

「私の理解が追い付いていないので混乱していますが、とにかく『兄は療育手帳を取得できた方が望ましい』ということだけは分かりました。私たち家族は一体これからどうすればよいのでしょうか」

「そうですね。大体、次のような流れで行動を起こすことになります」

 私は必要な手順を説明しました。

(1)妹が家族に事情を説明。療育手帳の取得に向けて動き出す。

(2)同時並行で明さんが精神科または心療内科を受診する。

(3)障害基礎年金の請求に必要な書類をそろえ、請求を完了させる。

 なお、障害基礎年金の請求時期は次のように場合分けをします。

■療育手帳が取得できた場合
診断書が入手でき次第、速やかに請求する。

■療育手帳が取得できなかった場合
精神科または心療内科を初めて受診した日から1年6カ月を経過した日以降に請求する。

 面談の最後に私は言いました。

「障害基礎年金の請求までやるべきことが多いので、その都度情報共有するようにしましょう。場合によっては、私がご家族と面談して事情を説明することも可能です。また、障害基礎年金に必要な書類をそろえていくお手伝いもできます。ご安心ください」

「そう言っていただけると本当に助かります。頼りにしています。ここまできたら、もうやるしかありませんから」

 妹は覚悟を決めた表情で力強く言いました。

 私との面談後、妹は明さんや両親と話し合いをしました。最初、家族の反応は「何もそこまでやらなくても…」といった消極的なものだったそうです。

 しかし、それでも妹は諦めませんでした。何度も家族に事情を説明し、説得を繰り返したところ、やっと明さんは療育手帳の取得のための判定を受けることになりました。その結果、明さんは軽度の知的障害と判定され、療育手帳を取得しました。

 また、明さんは同時並行で精神科も受診。私が手続きをサポートし、うつ病で障害基礎年金の2級を受給することができました。

 家族とはいえ、人を動かすのは容易ではありません。ひきこもり当事者の兄弟姉妹が何とかしようと動き出しても、途中で断念してしまうケースを私は数多く見てきました。

 諦めることなく結果を出した明さんの妹の熱意と行動力に、私は感心せざるを得ませんでした。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

【要チェック】これが“うつ病”の可能性がある「症状」です(画像14枚)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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