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「自閉症の兄」に“ライブさながら”の全力応援&大号泣する妹… 母が見た、ケンカばかりの兄妹の“絆”

知的障害がある自閉症の息子を育てる女性ライターが、息子の学習発表会で見た“兄妹愛”について紹介します。

学習発表会でのパラバルーン。一生懸命頑張る息子(べっこうあめアマミさん作)
学習発表会でのパラバルーン。一生懸命頑張る息子(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある10歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の6歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 多くの小学校では「学習発表会」と呼ばれる、日頃の学校での頑張りを発表する行事があると思います。今回はアマミさんの息子が通う特別支援学校の学習発表会で、アマミさんが思わぬ形で息子と娘の兄妹愛に触れた出来事について、紹介します。

特別支援学校の学習発表会で奮闘する息子

 息子が通う特別支援学校では、毎年1月に学習発表会のような催しがあります。生徒の日頃の学びの成果を発表するべく、ステージで集団での活動をしたり、図工の時間に作った制作物を展示したり、中学部の生徒が作ったお菓子や工芸品を販売したりします。

 発語がない息子は、普段の生活の中で学習発表会への思いや日々の練習のことを話してくれることはありません。

 しかし、担任の先生との連絡帳のやりとりで、息子が一生懸命練習している様子が伝わってきました。息子は言葉では言えないながらも、何となくソワソワした様子で日々を過ごし、学習発表会の日がだんだんと近づいていきました。

 発表会当日、息子は、音楽に合わせて数人でパラバルーンを使った演技をしました。パラバルーンとはカラフルな円状の布のことで、この布を数人で持ち、ぐるぐる回ったり、中心に向かって集まったり、上げたり下ろしたりしました。パラバルーンの演技は幼稚園や保育園のお遊戯会などでもよく行われます。

 小さい子でもできるような簡単な演技だと思われるかもしれませんが、重めの知的障害がある特別支援学校の子どもたちにとっては、大変なことだったでしょう。息子も、重度知的障害を伴う自閉症があるため、友達と一緒に言われた通りに布を持って動けるようになることは、すごく大変だったと思います。

 息子たちが持ったパラバルーンは、音楽に合わせて開いたりくるくる回ったりするなど、きれいな大きなお花のように動いていました。布を持つ一員として、緊張した面持ちで、きちんと自分の役割を果たして動いていた息子。幼稚園の頃のただ棒立ちだった運動会やお遊戯会を思うと、成長したなとグッときました。

娘の意外な姿に驚き

 土曜日だったこともあり、客席にはたくさんの家族が座っていました。わが家の場合、夫は仕事で行くことができませんでしたが、保育園児の娘、私の父、母も駆け付けてくれて、息子の勇姿を見守りました。

 中でも、一番テンション高く、息子の活躍を楽しみにしていたのは娘です。息子が登場する前、まだ別の学年が演技をしているときから、「◯◯ちゃん(息子の愛称)はどこ? まだなの?」と何十回となく聞き続ける娘。他にも在校生のきょうだいらしき子どもたちはいましたが、娘ほどソワソワしている子はいませんでした。

 そして、息子が登場。

 いつも見ているおなじみの兄の顔なのに、娘は応援しているアイドルが登場したかのごとく、テンション最高潮で「◯◯ちゃーーん!!」とステージに向かって叫びました。発表会当日の朝も一緒に朝ごはんを食べてきたいつもの兄なのに、学校という場所の、しかもステージの上だと何か違って見えたのでしょうか。

 ステージ上の息子を見る娘の顔はキラキラしていて、ステージにくぎ付けでした。

 息子を応援する熱心な娘の姿にもちょっと驚きましたが、もっと驚いたのはその後です。息子の出番が終わったので会場から廊下に出ると、ちょうど、出番を終えて教室に戻ろうとする息子のクラスの列に出くわしました。

 クラスメイトと一緒に縦に並んで歩く息子を見つけると、娘が急に走り出しました。

「◯◯ちゃん! ◯◯ちゃぁーーん!!」

 今度は息子をつかんで引き止めようとする娘。

「お兄ちゃんは教室に帰らなきゃだからね、こっちにおいで」と何とか私が引っ剥がそうとしましたが、意地になった娘の力は強くなるばかり。「うわぁぁーーん」と泣き叫びながら兄にすがりつきます。

 先生もびっくりした様子で、息子もポカンとしていましたが、娘がこんなに情熱的に息子を求めるなんて予想外で、私もびっくりです。とにかく息子から離して、先に行ってもらうと、娘はその場で泣き崩れてしまいました。まるで今生の別れのように。

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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