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母子感染する「先天梅毒」どんな病気? 子どもの後遺症のリスクは? 産婦人科医に聞いた

「梅毒」に感染している妊婦からの母子感染により、子どもが発症する「先天梅毒」。どう予防すればいいのか、産婦人科専門医が解説します。

「先天梅毒」はどんな病気?
「先天梅毒」はどんな病気?

 国立感染症研究所が、性感染症「梅毒」に感染している妊婦から母子感染して「先天梅毒」を発症した子どもの数が、過去最多となったことを発表しました。報道によると、今年1月から10月までに先天梅毒と診断された子どもは全国で32人に上ったということです。近年、梅毒の感染者は増加傾向にあり、今年の患者報告数は全国で1万3251人(11月19日までの速報値)に上り、3年連続で過去最多を更新したことも報道されています。

 母子感染する「先天梅毒」とは、どのような病気なのでしょうか。産婦人科専門医の本多釈人さんに聞きました。

母子感染のリスクは60~80%

Q.そもそも、「梅毒」とはどんな病気ですか。

本多さん「梅毒は、梅毒トレポネーマによる細菌性の性感染症です。『The Great Imitator (模倣の名人)』と呼ばれているほど、全身にさまざまな症状をもたらす可能性があります。梅毒は感染しても免疫ができないため、一度治療し、完治しても繰り返し感染します。

また、母子感染により、流産や死産、後述の『先天梅毒』などを起こす可能性もあります。梅毒は、症例数が多い一方、有効な抗菌薬があり、適切な治療によって母子感染を防ぐことができる点から、対策をしっかりすべき疾患として位置付けられています。

初期は、主に陰部や口唇部、口腔(こうくう)内、肛門といった感染が起きた部位にしこりができたり、足の付け根のリンパ節が腫れたりする症状がみられます。痛みを伴わないことが多く、治療をしなくても自然に軽快するため、しこりの存在に気付かないまま自然に消え、そのままにしてしまうことも少なくありません。ただし一方で、痛みやかゆみを感じるケースもあるので、『痛みがあるから梅毒ではない』とも言い切れません。

また、手のひらや足の裏、全身にうっすらと赤い発疹が出るケースもあり、小さなバラの花のように見えることから『バラ疹』とも呼ばれています。発疹自体は数週間以内に消えることもありますが、梅毒そのものは抗菌薬で治療しない限り、治りません」

Q.子どもの「先天梅毒」とはどんな病気ですか。

本多さん「『先天梅毒』は、梅毒にかかった母体から胎盤を介し、胎児に梅毒トレポネーマが感染することで起こるものです。出生時は無症状であることが多いですが、生後3カ月以内に発症する『早期先天梅毒』の場合、水疱性発疹や斑状発疹といった皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹や骨軟骨炎、鼻閉などの症状が現れます。

胎盤を介した母子感染のリスクは全体で約60~80%とされ、妊娠後期に高くなります。妊娠中、梅毒の治療を行わない場合、死産や新生児死亡のリスク上昇に関わるといわれています」

Q.子どもの先天梅毒は、防ぐことができるのでしょうか。

本多さん「妊娠中の十分な治療により、多くの症例では母親と胎児の双方で治癒します。しかし一方で、妊娠後期の治療の場合、たとえ感染を排除できても、出生後に梅毒の兆候が現れる症例もあります。

十分な治療を受けた後も、血清反応が陽性のままである女性の場合、再感染の可能性があります。以降の妊娠において、血清抗体価から再発、もしくは再感染が示唆される場合、再度治療を受けましょう。なお、血清反応が陰性であっても、梅毒に感染した者との性的接触歴がある場合、25~50%程度の感染の可能性があるため、治療を受けた方がよいと考えるべきです」

(オトナンサー編集部)

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本多釈人(ほんだ・おくと)

医師(産婦人科専門医、美容皮膚科医)、舞台俳優、ドラァグクイーン

日本産婦人科学会、日本美容皮膚科学会所属。兵庫医科大学病院産婦人科、府中病院産婦人科、ささやま医療センター産婦人科、オーク住吉婦人科(不妊治療)、新宿レディースクリニック婦人科、エイトビューティークリニック美容皮膚科を経て、現在は表参道スキンクリニック美容皮膚科・外科、アンジークリニック美容皮膚科にて勤務中。日々進歩する美容医療の世界で、一人一人の美の価値観に寄り添った医療を提案しながら、産婦人科医・ドラァグクイーンとしての経験も活かし、女性の悩みを解決するお手伝いを行っている。肌や美容についての話を、メンズという立場から面白く楽しく発信するためにYouTubeも配信中。YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@dr.oct-tatiana/)。

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