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プロ野球、Jリーグ、”コロナで中止”続出! 「アスリートは免疫力低くなりがち」は事実?

アスリートは「風邪一つひかない」というイメージがありますが、実は「アスリートは風邪をひきやすい」「免疫力が低くなりがち」との情報もあります。事実でしょうか。

アスリートは風邪をひきやすい?
アスリートは風邪をひきやすい?

 国内のサッカーJリーグ、プロ野球に続いて米大リーグも開幕し、スポーツが盛んな季節になりました。一方で、新型コロナウイルスの流行も続き、チームでの行動が多いためもあってか、選手の多くが感染して中止になる試合も相次いでいます。プロスポーツなどの場で活躍するアスリートは、強靭(きょうじん)な肉体を持ち、「風邪一つひかない」イメージがありますが、実は「アスリートは風邪をひきやすい」「免疫力が低くなりがち」との情報もあります。事実でしょうか。アスレチックトレーナーで、一般社団法人フィジカル&ムーブメントトレーニング協会代表の井上かな映さんに聞きました。

激しい運動直後、免疫力が落ちる

Q.「アスリートは風邪をひきやすい」「免疫力が低くなりがち」というのは事実でしょうか。

井上さん「ある条件下では事実です。アスリートは普段から高強度のトレーニングを行っているため、練習直後などは急激に疲労して、免疫力が落ちます。そのタイミングでウイルスなどを体内に取り込んでしまうと、風邪をひいたり病気になったりする可能性が高くなります。

大切なのは、早期のリカバリーで、ビタミンCなど疲労回復物質をたくさん摂取し、ウイルスに負けないこと。コンディショニングが重要となってきます」

Q.アスリートと、一般的な運動をする人、運動不足の人を比較すると、風邪をひきやすい順はどうなりますか。

井上さん「一般的に考えられる順序としては、最も風邪をひきやすいのが『運動不足の人』、次に『アスリート』、最もひきにくいのが、一般的な運動をする人となるでしょう。免疫力の高さとその回復機能が関わっています。

適度な運動は感染リスクを弱めますが、激しいトレーニングを継続するアスリートは、風邪を引くリスクが一般の人よりも3倍近くあると言われています。運動習慣と感染リスクの関係においては、『Jカーブ理論』が提唱されます。

運動不足の人は総じて代謝が低く、ストレス耐性も低いためウイルスが体内に侵入した際にウイルスを退治する力がない。これを『免疫力が低い』と表現します。アスリートは、度重なるトレーニングによりストレス耐性が高まっており、一般的には免疫力が高く風邪をひきにくいと思われがちですが、運動直後にリカバリーを適切に行わないと、上気道や腸管への感染を起こしやすくなります。長距離選手などは、試合前後で風邪の症状を訴えることが多く、持久力トレーニングを多く行うアスリートのコンディショニングは、とても重要視されています。

一般的な運動、つまり、定期的に適度な運動をしている人は、ストレスによる刺激からの回復もスムーズに行うことができ、免疫力を少しずつ向上させていくことができます。そのため、運動不足の人や、体を酷使しているアスリートに比べて、コンディションが落ち着いており、風邪をひきにくい状態であると言えます」

Q.アスリートが風邪などの感染症にかかりやすいと、競技に支障が出ると思います。どのように対策をしているのでしょうか。

井上さん「アスリートの風邪、感染症対策は、かなり慎重に行われています。特に季節の変わり目、冬場は空気中にウイルスが浮遊しているので、疲労が蓄積されていると、注意をしていても感染症のリスクが高いのです。

『喉が痛い』と訴える選手が多いので、マスクの着用はコロナが流行する前から、アスリートにとっては常識でした(チームにもよるとは思いますが、私が見ていたチームはそうでした)。基本的なことですが、手洗いやうがいも頻繁に行っています。

アスリートの風邪予防には、ウイルスの侵入を防ぐ外的な環境をコントロールすることと、しっかりと栄養管理を行うことが大事です。食事はアスリートにとって大切なトレーニングの一つです。

栄養素としては、ビタミン、ミネラルを必要量摂取することが大切です。代表的なものはビタミンA、ビタミンD、ビタミンC、ビタミンEと、亜鉛です。

・ビタミンA 皮膚や粘膜を正常に保つ
・ビタミンD 免疫機能を調節する働き、骨を丈夫にする
・ビタミンC 白血球の働きを助けてウイルスを排除。ウイルスの増殖を阻止するタンパク質「インターフェロン」の生成を促す
・ビタミンE 抗酸化作用があり、細胞や組織を酸化から守る
・亜鉛(ミネラル) 皮膚や粘膜の働きを助ける

また、コエンザイムQ10、グルタミン、ポリフェノールなどの栄養素も、免疫力を高めるとして研究が進んでいます。

これらの栄養素を積極的に摂取することも大切ですが、何よりも健康的な生活習慣、食生活が必須です。食事の頻度が極端に少なかったり、食生活が乱れていたりすると栄養バランスも偏り、必要なタンパク質や脂質も補えなくなります。睡眠時間が少ないことも、体の回復が追いつかず、風邪をひきやすくなる原因になります。規則正しい生活をしているか、見直す必要があるでしょう」

Q.免疫力が高まり、風邪をひきにくくなる適度な運動とは、どの程度のものでしょうか。

井上さん「免疫力を高め、風邪をひきにくくなる『適度な運動』とは、運動した後、十分な回復期間があるペースでの運動です。強度も影響しますが、激しい運動をした後、十分に休養が取れない、もしくは回復のための栄養素が不足していると、免疫力が落ち、風邪をひくリスクが高まります。健康増進のための運動として推奨されているのは、1日20〜60分の運動を週に3回以上継続することです。人と話ができるくらいの『楽だ』と感じる程度から『ややきつい』レベルで運動を継続することで、免疫機能をアップさせていきましょう」

Q.一般の人が、例えばフルマラソンのような激しい運動をするとしたら、その後、風邪をひきにくくするためには、どのようにしたらよいのでしょうか。

井上さん「基本的にはアスリートが行っている風邪予防を、同じように行うことが大切です。大会前後には、ウイルス感染を極力防ぐために、小まめな手洗いやうがい、マスクの着用、加湿器などを使用して乾燥を防ぎ、十分に睡眠時間をとることを心掛けましょう。

毎日十分な水分補給を行い、喉の粘膜を守るためにビタミンミネラルを多く含む食べ物を取り、糖質、脂質、タンパク質のバランスを取りながら、きちんと必要量を食べることを意識して、本番に備えましょう」

(オトナンサー編集部)

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井上かな映(いのうえ・かなえ)

アスレチックトレーナー

東海大学体育学部体育学科卒業後、渡米。米国ネブラスカ大学オマハ校大学院を卒業後、「全米公認アスレティックトレーナー」を取得し、女子プロバスケットボールチーム「WNBAヒューストン・コメッツ」で経験を積む。2010年に帰国後、日本航空JALラビッツ、東海大学男子バスケットボール部などでサポートを歴任。2016年に一般社団法人フィジカル&ムーブメントトレーニング協会を設立し、トレーナー、インストラクターの育成を行う。2019年に東京都世田谷区で「スタジオトーチ下北沢」を開業。一般社団法人フィジカル&ムーブメントトレーニング協会(https://www.pmt-a.com)。スタジオトーチ下北沢(http://studio-torch.com/)。

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