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3.1億→20億円! 大リーグの年俸、なぜ高い? 日本と違うワケを専門家に聞く

日本のプロ野球から大リーグに移籍した選手が、高額契約を結ぶことがあります。そもそも大リーグの年俸は、なぜ日本より高いのでしょうか。

カブスのユニホーム姿の鈴木誠也選手(2022年3月、時事)
カブスのユニホーム姿の鈴木誠也選手(2022年3月、時事)

 ポスティングシステムを利用して米大リーグ移籍を目指していた元広島カープの鈴木誠也選手が3月15日、シカゴ・カブスと契約合意したとの報道がありました。契約は5年で、年俸総額は8500万ドル(約100億円)と推定されています。単純計算すると年20億円という高額年俸で、広島時代の3億1000万円(推定)を大きく上回ります。鈴木選手に限らず、大谷翔平選手など、米大リーグ移籍後、一時的には下がっても、日本のプロ野球時代より高額の年俸を獲得する選手がいます。

 そもそも、大リーグの年俸は、なぜ日本よりこんなに高いのでしょうか。プロ野球球団の経営にも詳しい、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

放映権料、世界市場から

Q.大リーグの選手の年俸は、日本のプロ野球とどれくらい違うのでしょうか。上限はないのでしょうか。

江頭さん「大リーグ機構(MLB)の球団と、日本野球機構(NPB)の球団が、プレーヤーに支払う年俸の違いはかなり大きいという印象があります。1球団が登録プレーヤーに支払う報酬の総額は、北米のプロスポーツの年俸などをまとめているデータサイト『spotrac』によると、ロサンゼルス・ドジャースで約2億7000万ドル(約323億7000万円)です。NPBは12球団の総年俸で約304億7000万円(日本プロ野球選手会、2021年6月発表)と、MLB1球団で、NPB全てのプレーヤーが受け取る年俸を超えているのが現状です。

MLBには、プレーヤー1人の報酬上限を制限する制度(サラリーキャップ)はありませんが、チーム全体で支払う年俸総額には上限があり、その金額を超えると、超過額の一定割合を『Luxury Tax(ぜいたく税)』として支払う制度があります。つまり、プレーヤー年俸を無制限に上げることはできない制度になっています。

また、収益力の高いチームから、収益分配制度によって、収益力の脆弱(ぜいじゃく)なチームへ、資金が分配される制度もあります。つまり、高年俸の選手はいるものの、資金力によって高額なプレーヤーを集め、競技力に大きな差が生まれることがないような仕組みが整っているわけです」

Q.ではなぜ、大リーグの選手の年俸は、なぜ日本のプロ野球と比べて高いのでしょうか。それだけの年俸を出して、大リーグの各球団の経営は大丈夫なのでしょうか。

江頭さん「先にMLBの収益について説明します。日本との大きな違いは、テレビ放映権料金です。2022年、アメリカのスポーツ専門チャンネル『ESPN』は、MLBの30試合を年間7億7000万ドル(約924億円)で契約しました。FOXは、リーグチャンピオンシップシリーズ2つと、レギュラーシーズン土曜日のダブルヘッダーの権利で5億2500万ドル(約630億円)、Turner Sportsは2022年も今まで同様に4億7000万ドル(約560億円)の契約を行うと報じられています。これらは全米を対象としたテレビ放映権ですが、1チーム70億円になります。この他に、『MLB.com』による映像配信料、グッズ販売収益、リーグからの分配金を含めると、ロサンゼルス・ドジャースで1億8500万ドル、マイアミ・マーリンズで9600万ドルと報じられています(spotracのデータより)。

これだけの収益があるので、スター選手に高額年俸を出しても、採算が取れるのです」

Q.日本のプロ野球球団は、大リーグほどの高額年俸は出せないのでしょうか。

江頭さん「MLBは全国放送の契約を全てリーグで行い、全チームに均等分配しています。ウェブサイトも共通にしてコストを抑え、グッズも同じ商品でチームロゴを変更することで大量生産しています。

一方、日本のプロ野球は、株式会社の集合体で、リーグとしてビジネスを行いにくい環境にあります。また、テレビ放送による収入も少なく、かつて1億円と言われた巨人戦の地上波放送は壊滅状態です。ネット配信や有料CS放送が行われていますが、ファンの球団の全試合をカバーしようとすると、対戦相手によって別契約になることが多く、月額4000円を超える負担を強いられるため、伸び悩んでいるのが現状です。

また、NPBは世界市場で放映権の買い手が少ないことも問題です。MLBは、日本や南米などで放映権が販売されています。言語や文化の壁を簡単に超えられるスポーツコンテンツを持ちながら、世界でビジネスできないことが、日本のプロ野球の課題と言えるでしょう」

Q.かつては「仮に年俸が下がっても、メジャーに挑戦したい」という意気込みで米国に向かう選手が多かったと思うのですが、年俸の格差が大きいと、「メジャーの方が稼げるから」と海を渡ったり、プロ野球を経験せずに直接メジャーに挑戦したりする選手が増えてもおかしくないように思います。

江頭さん「MLBで高額報酬を得ているのは、1チーム40人のロースター(メジャー契約選手)が中心です。つまり全体でもわずか1200人だけです。マイナーリーグになれば、1カ月2000ドル(約24万円)程度の報酬で、契約期間は3月から11月末までの9カ月だけとなり、高額収入とは無縁です。高額報酬を目標にMLBへ挑戦するのは非合理的です。NPBで素晴らしい成績を残してMLBに行っても、マイナーに落ちれば、契約変更を提示されるのが当然です。パフォーマンスを出せないプレーヤーにお金を払わないのは、アメリカの常識です。

そういう意味では、2軍でも月額24万円までは下がることのないNPBの方が経済合理性はあります。世界最高峰のプレーヤーには多くの報酬がある、という理解の方が適切だと思います」

Q.有力選手が次々と大リーグ入りすると、日本のプロ野球が空洞化、あるいはレベルダウンしてしまうという懸念はないのでしょうか。

江頭さん「これは10年くらい前に話題になったことがあります。現在MLBからNPBに戻って活躍するプレーヤーがいたり、コーチになって若手指導をしたりしている人がいます。彼らがMLBのいいところや、マイナスの点を輸入してくれています。その結果、NPBの底上げにつながっていると思います。

多くの日本人プレーヤーがMLBに行きましたが、NPBのパフォーマンスは落ちていないと思います。『MLBの下部組織のようだ』と、やゆする人もいますが、実力が異なり、指導者が異なり、経営が異なり、どこを見てもMLBが上位に思えます。一方で、日本式の野球が世界で通用することも事実です」

Q.日本のプロ野球球団は、米大リーグのような高額年俸を出すことを目指すべきなのでしょうか。それとも、そこまでの対応は不必要なのでしょうか。

江頭さん「NPBが高額年俸を目指すべきではありません。その理由は、市場の成熟度に違いがあるからです。MLBは7つのマイナーリーグを持ち、全米に250以上の大小プロ野球チームがあり、そのほとんどが黒字経営です。それだけチームがあっても、観客が入るから黒字経営が可能なのです。

もし日本でアメリカ同様の規模でプロ野球を運営するなら、1都道府県に5以上のプロ野球チームがあり、1チーム年間80から40試合において、平均1万人を集客しなくてはなりません。さらに、NPBのテレビ放映権を、韓国や南米に販売することが必要です。リーグのウェブサイトから年間150億円を超える収益も生み出さなくてはなりません。

MLBの年俸が高い理由は収益力であり、日本プロ野球のプレーヤーのパフォーマンスや魅力が劣るからではありません。先述したように、日本式の野球は世界でも通用しています。ただ、アメリカと比較すると野球ファン人口が少なく、歴史が短く、経営形態が異なるだけです。

野球少年にとって、NPBで活躍してからMLBに挑戦することが『夢』になりました。世界で活躍するHEROへの道筋がハッキリしています。野球の生まれた国、本場MLBと、年俸の面で無理に競う必要はないと思います」

(オトナンサー編集部)

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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