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「事故は起こさないし、自分は大丈夫」 飲酒運転を繰り返す人の“成功”体験

世の中のさまざまな事象のリスクや、人々の「心配事」について、心理学者であり、防災にも詳しい筆者が解き明かしていきます。

飲酒運転事故で小学生2人が亡くなった千葉県八街市の現場(2021年6月、時事)
飲酒運転事故で小学生2人が亡くなった千葉県八街市の現場(2021年6月、時事)

 千葉県八街市で6月、飲酒運転のトラックが児童の列に突っ込み、2人が死亡、3人が重傷を負う痛ましい事故が起きました。12月1日の初公判で、トラックを運転していた被告は「事故は起こさないし、自分は大丈夫だという気持ちだった」と話したそうです。

 飲酒運転(正確には、酒気帯び運転と酒酔い運転)はたびたび起きる悲惨な死亡事故を受けて、厳罰化が進み、呼気中アルコールの基準値も引き下げられてきました。その流れを受け、飲酒運転の事故件数や摘発件数も減少傾向にあります。一昔前までは「少しぐらいなら飲んで運転しても大丈夫」と思っていた人も今では、厳罰化を受けて、「飲んだら乗らない」を徹底している人がほとんどだと思います。

 そんな中、この被告はなぜ、「自分は大丈夫」と思って、飲酒運転を繰り返してしまったのでしょうか。

「促進感情」と「抑制感情」

飲酒運転を巡る感情
飲酒運転を巡る感情

 飲酒運転に限らず、「違反」は何か「利益」が得られるから行われるものです。例えば、お酒を飲みに行った後、車を置いて、公共交通機関で帰るのは面倒ですし、代行運転を呼べば、料金が発生します。自分で運転するのは悪いことですが、楽だし、お金がかからない、つまり、「利益」が得られるのです。

 また、被告は「仕事の取引相手にイライラすると、気持ちを収めるためにパーキングエリアなどで飲酒した」とも供述していることから、「お酒がイライラを抑えてくれること」も利益になっていたと考えられます。お酒でイライラを解消すること自体は悪いことではありませんが、その後、運転するのは許されないことです。

 ここに挙げたようなことは、違反をやろうという「促進感情」のもとになります。「違反しても大丈夫」「見つからない」「自分ならうまくやれる」といったコントロール感も違反を促進させる感情です。逆に、違反をやめようと思う「抑制感情」のもとになるのは「発覚した場合の罰則の重さ」「事故になった場合の不利益」「罪悪感」「違反しなければ得られる利益」などです。

 違反が行われるかどうかは、この促進感情と抑制感情のどちらが強いかで決まります。飲酒運転の罰則強化によって、多くの人の抑制感情は促進感情を上回ったようですが、今回の被告の場合は、それでも、促進感情が勝ってしまったようです。

「間違った成功体験」で促進感情高く

 ここで、ポイントは「違反に成功した体験」が、促進感情であるコントロール感を高めてしまうということです。最初は恐る恐る犯した違反でも、バレなかった、事故にならなかったという成功体験は次の違反のハードルを下げてしまいます。実際、被告は飲酒運転を始めるようになったきっかけを聞かれ、「友人ともめごとを起こし、夜通し、飲み、そのまま仕事に行った」と供述しています。

 仮にそのとき、警察に捕まったり、車をぶつけたりしていれば、違反を繰り返さなかったかもしれません。ですから、本来は、小さな違反でも見逃さないようにしないといけないのですが、取り締まり強化にも限界があり、今回、このような悲しい結末になってしまったと考えられます。

 万が一、この記事の読者の中に、あるいは周囲の人に何度か飲酒運転に「成功」し、「自分は事故を起こさない」「自分は捕まらない」などと思っている人がいたら、それは違反の促進感情を高める間違った成功体験であること、その繰り返しがいずれ、今回のような悲しい結果に結びつくのだということをよくご理解いただき、取り返しのつかないことになる前に「飲んだら乗らない」を徹底してほしいと思います。

(名古屋大学未来社会創造機構特任准教授 島崎敢)

島崎敢(しまざき・かん)

名古屋大学未来社会創造機構特任准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員を経て、2019年より、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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