投票用紙に「頑張れ」と記入、どうしていけない? 他人に投票先を聞く行為は?
衆院選が10月31日に投開票されますが、投票用紙には候補者の氏名、もしくは政党名のみを書き、「頑張れ」「尊敬しています」などと書いてはいけないとされます。なぜでしょうか。
衆院選が10月31日に投開票されますが、4年ぶりの衆院選、2年ぶりの全国規模の国政選挙ということで「初めて投票に行く」という若者も多いと思います。投票の際、投票用紙には候補者の氏名、もしくは政党名のみを書き、「頑張れ」「尊敬しています」などと書いてはいけないといった事項など決まりがあります。それらの行為がどのような法に違反するのか、弁護士の藤原家康さんに聞きました。
「投票の秘密」侵される
Q.投票用紙に候補者の氏名(比例代表の場合は政党名・政治団体名)以外のことを書いてはいけないのはなぜでしょうか。
藤原さん「投票の秘密が侵されることになるからです。投票の秘密は憲法15条4項で保障されています。選挙の自由と公正を確保するために必要不可欠と考えられています。投票用紙に候補者の氏名以外の目印などを書いてよいとすると、その投票用紙を誰が書いたか分かることとなってしまいます。
例えばの話ですが、『あなたは候補者名の後に“頑張れ”と書いてください』『あなたは候補者名の後に“尊敬しています”と書いてください』といった指示を出した陣営関係者がいたとします。開票作業は公開の場で行われますので、誰が投票したか、あるいは投票していないかが分かってしまう可能性があるわけです。そのため、公職選挙法68条の『無効投票』を定めた中に『公職の候補者の氏名のほか、他事を記載したもの』を無効とする条文があり、他事記載を禁じているのです」
Q.投票所には鉛筆が用意されていますが、コロナ禍を受けて、筆記用具の持ち込みを認める選管が多いようです。ただ、筆記台まで行ってから、筆記用具を取り出すためにバッグを開けると、係の人から怪しまれることもあるようです。なぜでしょうか。
藤原さん「選挙の円滑な運営を確保するため、選挙管理委員会担当者や係の人たちがいろいろと警戒している部分はあると思います。例えば、『偽造投票用紙を取り出して投入しないか』などと不正行為を疑う可能性もあるでしょうし、『選挙妨害のために凶器を取り出さないか』といったことも警戒すると思います」
Q.コロナ禍で投票日の「密」を避けるため、期日前投票を利用する人がこれまで以上に増えるかもしれません。ただ、期日前投票は本来、「投票日に投票に行けない理由がある人」が対象と聞きます。「日曜は家でゆっくりしたいから」が本音なのに、理由を「仕事・学業のため」と宣誓書に書くと何らかの法的問題があるのでしょうか。
藤原さん「期日前投票ができるのは、公職選挙法において一定の場合とされており(同法48条の2第1項)、その場合に該当しなければ、期日前投票ができないことになっています。理屈としては『投票日に家でゆっくりしたい』というだけでは期日前投票はできないことになりますが、実際上、そこまで取り締まっているわけではありません。
また、今回の衆院選で、総務省はホームページなどで、期日前投票を積極的に活用するよう呼び掛けています。新型コロナ対策として、当日の投票所の『密』をなるべく避けるためです」
Q.誰に投票したか、家族や友人に聞くことは法的問題がありますか。
藤原さん「聞くこと自体に法的問題はありませんが、しつこく聞き出そうとするなど、度を過ぎると問題になることもあり得ます。先述のとおり、投票の秘密は憲法で保障されています。憲法は通常、国家に対し、市民の自由を侵さない義務を課すもので、基本的には、私人と私人の間のことを決めるものではありませんが、投票の秘密については、私人と私人の間にも適用されると考えられています」
Q.では、自分が誰に投票したか、家族や友人に言うことはどうでしょうか。
藤原さん「本当に自発的に、自由に言うことは問題ありませんが、状況により、本当に自由か、疑いがある場合があり得ます。先ほどの質問と関連しますが、誰かに促されて言うことは問題になる可能性もあるでしょう」
Q.都市部から地方に引っ越した人が「午後8時までに行けば間に合う」と思っていたら、午後6時に投票所が閉まっていて投票できなかったケースもあるようです。なぜ、このようなことになるのでしょうか。
藤原さん「公職選挙法40条は投票所の開閉時間を定めています。午前7時から午後8時が原則ですが、市町村の選挙管理委員会は一定の場合、投票所を開く時刻を2時間以内の範囲で繰り上げ、もしくは繰り下げ、または投票所を閉じる時刻を4時間以内の範囲内において繰り上げることができるとされています。
つまり、投票を締め切る時間について、早ければ午後4時とすることも可能なわけです。地方では『夜間の投票者が少ない』といった理由から、午後6時や午後7時で投票所を閉鎖する地域が増えています。投票所入場券や選挙公報に時間が明記されているはずですので、しっかり確認しましょう」
Q.投票について、ひと言呼び掛けていただけますか。
藤原さん「投票はまさに、国民が主権を行使することです。日本国民は、一人一人が日本という国の社長、最高責任者であり、自分たちのこととして、政治の在り方を決めなければなりません。国民が主権を持つようになったのは、紀元前後という長い歴史の中で、日本では、わずか七十数年前のことです。私たちはそのような幸運な時代を生きています。
他方で、その主権は長年にわたる人々の努力や苦しみのもとで獲得されました。投票という、その貴重な機会を私たち一人一人の生活をより充実させるべく、積極的に生かしましょう!」
(オトナンサー編集部)
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