お墓に無礼な行為で逮捕も…「礼拝所不敬罪」とは? 肝試しは大丈夫?
お墓などで無礼な行為をすると「礼拝所不敬罪」という罪に問われることがあるそうです。どのような罪で、どのようなことをすると適用されるのでしょうか。
長崎市の平和公園内にある、引き取り手のない原爆犠牲者の遺骨を納めた施設で、不審な焼け跡が見つかり、市内の男(52)が4月末、「礼拝所不敬」の容疑で逮捕されたとの報道がありました。焼香台で肉を焼いたとみられるとのことです。あまり聞いたことのない「礼拝所不敬罪」ですが、どのような罪で、どのようなことをすると適用されるのでしょうか。弁護士の藤原家康さんに聞きました。
お寺や神社も対象
Q.礼拝所不敬罪は、どのような行為に対して適用されるのでしょうか。
藤原さん「礼拝所不敬罪となる行為は、『神祠(しんし)、仏堂、墓所その他の礼拝所』に対し、『公然と』行われる『不敬な行為』とされています(刑法188条1項)。神祠とは神社などのことで、仏堂は仏教の寺院といった施設を指します。
裁判例では、例えば、他人が見ている前で墓碑を押し倒す行為や、現実に放尿していなくても、人々の目の前で墓所に対して放尿するような格好をする行為が当たるとされています。法定刑は、6月以下の懲役もしくは禁錮または10万円以下の罰金となります」
Q.お寺や神社の建物に落書きする行為は「器物損壊罪」や「建造物損壊罪」「文化財保護法違反」が適用されることが多いように思います。こうした罪が適用されず、「礼拝所不敬罪」が適用されるのは、どういった点が考慮されるのでしょうか。
藤原さん「礼拝所不敬罪は、宗教的な風俗や感情を保護するものとされ、これらが害される場合、この罪が適用されます。仮に、落書きをしても、すぐに消せて跡が残らない程度のものだった場合、器物損壊罪などの適用は難しく、一方で他人の宗教的感情を害するものとして、礼拝所不敬罪を適用することが考えられます」
Q.お墓に落書きをしたり、荒らしたりする行為には、礼拝所不敬罪が適用されるのでしょうか。
藤原さん「お墓に落書きをする行為は、礼拝所不敬罪に当たります。お墓を荒らす行為については、例えば、お墓を掘り返す行為は、死体や遺骨を露出させなかった場合も、礼拝所不敬罪と、墳墓発掘罪(刑法189条、法定刑は2年以下の懲役)の両方が成立する可能性があります」
Q.子どもの頃、お墓で「肝試し」をした経験を持つ人は多いと思います。これは礼拝所不敬罪に該当しないのでしょうか。
藤原さん「お墓で肝試しをすることは、日本の慣習の一つとなっており、宗教的な風俗や感情を害するものではなく、礼拝所不敬罪に当たらないと考えられます。もちろん、肝試しの途中で、墓石を倒して損壊してしまったり、悪ふざけで、先ほど述べたような放尿の格好をしたりすれば、器物損壊罪や礼拝所不敬罪が適用される可能性はあります」
Q.沖縄ではお墓の前で宴会をする風習があるようです。これは礼拝所不敬罪に当たらないのでしょうか。
藤原さん「地域としてそのような風習があるのであれば、お墓の前での宴会は宗教的な風俗や感情を害するものではなく、礼拝所不敬罪に当たらないと考えられます。沖縄ではご先祖さまを供養する墓参りの一環として、宴会が行われているようですから、むしろ大事な行事ということでしょう」
Q.礼拝所不敬罪に問われないために注意すべきことがあれば教えてください。
藤原さん「礼拝所不敬罪は、宗教的な風俗や感情を害する行為が対象となりますので、それらを害しないかを検討する必要があると思います。とはいえ、先ほど裁判例で具体的な行為(放尿の格好など)を挙げましたが、常識的な行動や、その地域の慣習に従った行いをしていれば、まず心配することはないと思います」
(オトナンサー編集部)
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