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隣家の「木の枝」が自宅敷地に…何もしてくれなかったらどうする? 切ると違法?

隣家の「木の枝」が自分の家の敷地に入り込んできて、指摘しても何もしてくれない場合、どうすればいいのでしょうか。専門家に聞きました。

越境してきた木の枝、どうすればいい?
越境してきた木の枝、どうすればいい?

 夏は樹木の成長が盛んな時季ですが、隣家の「木の枝」が自分の家の敷地に入り込んできた経験がある人も多いと思います。全国的に空き家の増加も問題化しており、苦情を言う相手が分からないケースもあるでしょう。隣家に住人がいて、はみ出していることを指摘しても、何もしてくれない場合もあります。隣家が空き家だったり、何もしてくれなかったりする場合、勝手に枝を切ってもよいのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

売買物件の2〜3割で隣家から越境か

Q.隣家の木の枝が自分の家の敷地に入り込んでいる場合、枝を切るよう求めることはできますか。法的根拠を含めて教えてください。

牧野さん「一説には、売買される物件の2〜3割で、隣家の木の枝が『越境』しているといわれます。隣から越境してきた木の枝であっても、勝手に切ってしまうのは不法行為になる可能性があります。隣の人に切ってもらうか、あるいは、自分で切る場合は隣の同意を得るなど適切な対応が求められます。民法233条(竹木の枝の切除および根の切り取り)に『隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる』とあります」

Q.「切ってもいいが、うちは別に枝で困ってないから、費用はそちらで持ってほしい」と言われた場合、どうすればよいでしょうか。

牧野さん「話し合いで隣人が費用を負担してくれればよいのですが、負担してくれない場合は『切らないと危険である』など正当な理由があれば、緊急避難行為として民法720条(正当防衛および緊急避難)1項ただし書き(ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない)により、料金の支払いを隣家へ請求できる可能性があります。ただし、その請求に隣人が応じないときは裁判を起こす必要があります。

民法414条(履行の強制)2項にこのような場合の記載があり、『債権者(今回の場合は、切ってほしい側)は、債務者(隣人)の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる』とあります。裁判までやりたくない場合は、こちらの費用で切除することになるでしょう」

Q.手入れを頼んでも隣家が枝を切らない場合、どうすればよいのでしょうか。

牧野さん「先述の通り、勝手に切ってしまうのは不法行為になる可能性があります。ただし、『太い枝が玄関をふさいで、出入りが困難になった』などの場合、安全確保のためのやむを得ない緊急避難措置として、相当な範囲に限って(伐採しすぎはダメ)、越境した木の剪定(せんてい)や伐採が認められることもあります。民法に規定されています。

民法720条(正当防衛および緊急避難)に『(1)他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない』『(2)前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する』とあります。

『切ると枯れてしまう』『木を切ると縁起が悪い』など伐採に応じてくれない理由はさまざまですが、応じてくれない場合は、切断する代わりに、越境しないよう縄などで縛って、枝の向きや方向を変えるよう隣人に依頼するという対策もあるでしょう」

Q.隣が空き家の場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

牧野さん「まず、誰のものかを調べましょう。土地の所有者が分からない場合は市役所や法務局で調べられます。法務省の登記・供託オンライン申請システム『登記ねっと・供託ねっと』でも調査が可能です。土地の所有者と連絡が取れなかったり、行方不明だったりする場合は少し面倒です。民法25条に基づき、家庭裁判所へ不在者の財産管理人の選任申し立てを行い、財産管理人に切除を請求することになります」

Q.入り込んできた木の枝に当たってけがをしたり、屋根や外壁が傷ついたりした場合、隣家に損害賠償を請求できるのでしょうか。

牧野さん「『土地の工作物等の占有者および所有者の責任』(民法717条)に基づき、隣家の瑕疵(かし)と損害の発生、それらの間の因果関係を証明できれば賠償を請求できます。特に、損害の可能性を伝えたにもかかわらず、対応を怠っていた場合、請求できる可能性が高まるでしょう」

Q.木の枝を巡るトラブルについて、過去の事例・判例はありますか。

牧野さん「裁判例(新潟地裁判決1964年12月22日)では、越境した枝を切るよう請求できる要件として、単に枝が越境しているだけではなく、枝の越境により落ち葉の被害が生じている、あるいは生じる恐れがあるなど、何らかの被害を受けていたり、受ける恐れがあったりすることを求めています。木の枝を巡るトラブルは、まず話し合いですが、話し合いで解決できない場合、(任意の話し合いと訴訟の中間に位置付けられる)民事調停などの法的手続きを取ることになるでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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