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“知らないと恥”はマナー講師のうそ? 「焼香」は何回するのが正しいのか

「回数」に正誤がない理由

 葬儀の参列者が多くなったときは「焼香を1回で」とお願いされる場合があります。実際、葬儀社側の「ご参列者が大変多くございますから、お焼香は1回でお願いします」というアナウンスを聞いたことがある人もいるでしょう。

 もし、焼香に宗派としての正しい回数があるなら、葬儀社が正しくない回数の焼香を参列者に案内していることになります。参列者が多いからといって、正しくない焼香回数でのお参りをお願いするのでしょうか。そうではないことが分かると思います。

 1回でも2回でも3回でも心を込めて香をたき、故人に向かい、合掌して祈れば、それは焼香合掌であり、仏教の様式として共通の祈りの作法です。もし、お坊さんから、「うちの宗派の焼香は○回がいいよ」と言われたのなら、それに従いつつ、「それ以外の回数も間違いではない」ことも心にとどめておいてください。

 ちなみに、お葬式の参列者が多いときに案内される「1回焼香」には「香をつまむ→炭に落とす」という一連の行為を2回スキップする短縮効果しかありません。測ってみると、1人当たりの平均所要時間が30秒で、1回焼香にした短縮効果は5%と誤差程度の違いしかありませんでした。参列者に忙しく、お焼香をさせてしまうくらいなら、ほぼ時間は変わらないという判断から、筆者の葬儀社では1回焼香をすすめていません。

 また、焼香は中国を経由して入ってきた文化です。中国では、3の倍数は陽の数とされて好まれました。「三顧の礼」など丁寧さを表すのに3を好んだというのが、焼香の「3回」の由来ではないかと考えられています。なお、日本では「2礼2拍手」のように丁寧な礼を表す際は2を基本としています。こうしたルーツによって、儀礼の回数の基本数が異なるのはとても面白いです。

 さて、結論としては「焼香は昔からのよい行いだ。だから行う」というのが筆者の意見ですが、もう一つ、香をたくことに感服している点があります。

 煙も香りもだんだんと薄くなってはいきますが、決してなくならず、世界に広く届く存在です。死んだ人は火葬や土葬など、さまざまな葬送の方法によって還元されていき、時間をかけて世界に散らばっていきます。すなわち、両者ともあまねく存在するものとして、世界に普遍化したと考えられるものですから、死者も香も物質的な存在として、そして作用として、やがては世界そのものになっていくと考えられます。

 たとえ姿が見えなくなっても、世界に作用し、普遍化していく香りや煙を使って、故人に向き合うという行為は非常に優れたやり方だと筆者は常々、焼香というものに感心するばかりなのです。

(佐藤葬祭社長 佐藤信顕)

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佐藤信顕(さとう・のぶあき)

葬祭ディレクター1級・葬祭ディレクター試験官・佐藤葬祭代表取締役・日本一の葬祭系YouTuber

1976年、東京都世田谷区で70年余り続く葬儀店に生まれる。大学在学中、父親が腎不全で倒れ療養となり、家業を継ぐために中退。20歳で3代目となり、以後、葬儀現場で苦労をしながら仕事を教わり、現在、「天職に恵まれ、仕事も趣味も葬式」に至る。年間200~250件の葬儀を執り行い、テレビや週刊誌の取材多数。YouTubeチャンネル「葬儀葬式ch」(https://www.youtube.com/channel/UCuLJbkrnVw6_a35M0rk8Emw)。

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