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“親亡き後”を無視する50歳ひきこもり長女、家計管理から始まる将来への一歩

日々の支出を把握していない家族

 収入の見通しがある程度立ったので、次に支出についてお話しすることにしました。

「お父さま亡き後、収入は今よりも減ってしまいます。母子2人暮らしになった後、できるだけ収入の範囲内で生活できるようにしたいところです。そのため、まずはご家族の支出を洗い出し、お父さま亡き後、どの辺が削れそうかを考えていくとよいでしょう」

 すると、母親の表情が急に曇りました。

「今のところ、夫婦の年金収入で何とか生活はできているということは分かっています。ですが、何にいくら使っているのかまでは把握できていません…」

「そうなんですね。では、ご長女にも協力してもらって、ご家族の支出を洗い出すことにチャレンジしてみてはいかがですか? ご長女がお金の不安に向き合ういい機会になりますし。目的をもって行動を起こすことで不安も少しは紛れるかもしれません」

「それって家計簿をつけるということですよね? でも、家計簿ってあまり続かないものですよね…長女にもできるでしょうか?」

「家計簿。そう聞くと、なかなか続かないと感じてしまう人も多いと思います。それは『きっちり1円単位まで正確につけないといけない』『毎日必ずつけるもの』というイメージがあるからかもしれませんね。ですが、今回行う支出の洗い出しはもっと大ざっぱで構いません」

 それを聞いた母親は目を丸くしました。

「そうなんですか。それでも大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫です。きっちりとした正確な金額を知ることではなく、ご家族の支出の傾向を大まかに把握することが目的だからです。そのため、買い物のレシートや電気、ガス、水道などの明細書を基に、ざっくりとメモしていくだけでも構いません。使途不明金があっても、それが何だったのか深追いしなくても今のところは大丈夫です。毎日つけるのが大変だったら、1週間分まとめてつけるなど、ご家族の状況に合わせてみてください」

「そのくらいであれば、何とかできるかもしれません」

「ご家族の支出の傾向が分かってきたら、お父さま亡き後、『どの支出が削れそうか?』といったことも話し合うことになります。家計簿を数カ月つけていくと自然と見えてくることも多いですよ」

「分かりました。長女にも話してみて、一緒にやってみようと思います」

 母親は前向きな返事をしてくれました。

 後日、母親から長女へ面談で話したことを伝えてもらいました。父親亡き後、収入が月額約17万円になることが分かり、少し安心したのか、長女も「それくらいならできそう。家計簿やってみる」と答えてくれたそうです。

 面談後、母親と筆者は月に1、2回程度連絡を取り合うようになりました。ある日、母親は次のように語りました。

「長女はもう後がないと思ったのか、一生懸命取り組んでくれています。最近では『母子2人暮らしになったら新聞は必要ないから、月3600円の節約になりそうだね~』といったようなことを話すまでになりました。親子で共通の話題ができたのはとても大きいです。もちろん、将来の不安が完全になくなったわけではありませんが、それでも長女も少しは前向きになれたようです。いずれは私たち両親亡き後のことも考えていかなければなりませんが、まずは一歩一歩進んでいこうと思います」

 母親の話から、長女もお金の不安に少しずつ向き合っている様子がうかがえました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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