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“親亡き後”を無視する50歳ひきこもり長女、家計管理から始まる将来への一歩

高齢の両親と暮らすひきこもりの人の中には、親が亡くなった後も生活を続けていけるのか不安に感じる人もいます。親亡き後のお金の問題に、どのように向き合えばいいのでしょうか。

父親が救急搬送され、将来が不安に…
父親が救急搬送され、将来が不安に…

 高齢化したひきこもりのお子さんは親と同居していることが多いです。そのようなお子さんにとって、「もし、親が亡くなってしまったら…」といったことは考えたくないでしょう。「その考えはできるだけ先延ばしにしておきたい」という気持ちも分かりますが、いずれ、そのときは来ます。親亡き後のお金の不安にどう向き合っていけばよいのでしょうか。

まずは将来の年金収入を確認

 普段は頭の片隅に追いやり、できるだけ考えないようにしていた親の死。50歳のひきこもりの女性(長女)は漠然とした不安を抱えつつも、今まで両親と一緒に生活してきました。

 両親はともに70代。母親は以前から、親亡き後のことについて話し合っておきたいと考えていました。ひきこもりの長女に将来の話を切り出すと、「今はそんな話聞きたくないっ! やめてちょうだい!」と怒りの感情をむき出しにして、まったく話し合いにならなかったそうです。

 しかし、その状況が一変する出来事がありました。父親が自宅で急に倒れ、救急車で運ばれたのです。搬送先の病院で「高齢によるてんかん」と診断され、現在は月1回の通院をしながら自宅で静かに過ごしています。

 父親は幸い、命に別条はありませんでした。それでも急に意識を失って倒れ、手足をバタバタとけいれんさせている父親を目の当たりにしたことで、長女は父親の死を強烈に意識せざるを得なくなりました。

「お父さんが死んじゃったら、年金は入ってこなくなる。それじゃあ、私たちは生活できなくなっちゃう」

 長女は毎日のように、お金の不安を口にするようになってしまったそうです。心配になった母親は筆者に相談しに来ました。

父亡き後の収入は約18万円

 状況を整理するため、筆者は家族構成から伺いました。

【家族構成】
父親 77歳
母親 76歳
長女 50歳
親子3人暮らし
次女 48歳。結婚後、両親家族とは別居

 収入は両親の年金収入のみ。次女の家族からは資金援助は期待できないとのことでした。そこまで話が進んだところで、母親は年金の振込金額が記載されているはがき(年金振込通知書)を筆者に手渡しました。

「私たち両親が亡くなった後のお金のことを考える必要があるのは十分承知しています。ですが、まずは『父親亡き後、残された2人の生活が成り立ちそうかどうか』を知りたいと思っています。それを基に長女と話し合ってみたいのです」

「分かりました。お金の不安は数字(金額)にすることで、ご家族でイメージが共有しやすくなりますからね。まずは、お父さま亡き後の年金収入から確認しましょう」

 筆者はそう答え、両親の年金振込通知書を基に父親亡き後の年金収入を試算しました。

「お母さまの老齢年金が年額で約48万円。遺族厚生年金が年額で約160万円。合計で約208万円になりますから、月額換算にすると約17万3000円になりそうです」

「結構もらえるんですね。この金額だったら何とかなりそうです。長女も少しは安心できるかもしれません」

 母親はホッとした表情を浮かべました。

「あくまでも概算なので、お時間のあるときに最寄りの年金事務所へ相談してください。遺族厚生年金の金額はお父さまが亡くなる前でも試算してもらえます。お母さまが1人で相談に行く場合は、お父さまの委任状が必要になるので注意してください」

「はい、分かりました。時間を見つけて相談に行くようにします」

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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