新試験見送り、一斉休校…「2020年」までにつまずいた教育改革 五輪延期の皮肉も
大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

新型コロナウイルス感染症の影響で延期された東京五輪・パラリンピックまで、あと1年を切りました。本来なら、2020年7月24日に開会式を行うはずだった「東京2020大会」です。安倍政権下の教育政策も、五輪開催の2020年を「ターゲットイヤー」としてスケジュールが組まれていましたが、さまざまな点でほころびを見せています。
学習指導要領改定と高大接続改革
2012年12月末、民主党からの政権交代により、安倍晋三首相の側近で自民党教育再生実行本部長を務めていた下村博文氏が、文部科学相兼教育再生担当相に就任しました。下村氏は個人としても、英語教育や大学入試の改革などに熱心でした。
2013年9月に五輪の東京招致に成功すると、下村文科相はすぐさま、2020年を日本が新たな成長に向かう「ターゲットイヤー」とすることを打ち出し、文部科学省がその先駆けとして努力することを表明します。手始めは五輪教育(2014年1月の「夢ビジョン2020」)でしたが、その後、徐々にさまざまな教育改革へと広げていきます。その2本柱が、学習指導要領の改定(教育課程改革)と、大学入学者選抜改革を含めた「高大接続改革」でした。
指導要領は時代の変化などに合わせて、おおむね10年に1度改定されており、2008~2009年告示の指導要領は2011年度の小学校から順次、全面実施となっていました。下村文科相は、五輪で世界中の人々が集まる2020年度から、小学校の英語(高学年での「外国語活動」)を教科化しようと改定サイクルを早めるべく、2014年11月、中央教育審議会に改定を諮問しました。
折しも、民主党政権末期の2012年8月から始まっていた高大接続改革の審議が大詰めを迎えていました。その間、政府の教育再生実行会議も2013年5月、同10月と提言をまとめ、中教審に影響を与えています。下村文科相は、指導要領の改定と高大接続改革を「明治学制(1872年)以来の大改革だ」と胸を張りました。
とりわけ、入試改革の目玉である大学入試センター試験の後継テスト(現在の大学入学共通テスト)は、2021年度の大学入試に使うものにもかかわらず、「2020年度に新設する」と位置付けられました。そのため、2020年度に実施する「令和3(2021)年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト」という、何ともいびつな名称になりました。それもこれも「2020年度」というターゲットイヤーに合わせるためでした。
感染拡大前につまずいた大学入試改革
そうしてターゲットイヤーに向かおうとした矢先、まず、大学入試改革がつまずきます。共通テストの2本柱だった英語4技能評価(聞く・読む・話す・書く)の民間資格・検定試験活用と、国語・数学の記述式問題導入がいずれも2019年末に、相次いで見送られたのです。
とりわけ、英語の民間試験は受検準備の手続きが始まる11月1日の直前になっても、実施日程や会場設定の全体像が明らかになりませんでした。試験実施団体によると、背景の一つに、五輪の影響で試験会場の調整が進まなかったこともあったといいます。もっとも、この時点で見送りを決めなくても、新型コロナの影響で2020年4月からの受検開始(2020年12月までに受けた2回までの試験成績を活用)はできなかったでしょう。
新たな学習指導要領は、2020年4月から小学校で全面実施となりました(中学校は2021年度から、高校は2022年度入学生から)。高学年の英語を教科化し(外国語科)、それまでの外国語活動を中学年に降ろしたことで、3~6年生の授業を週1コマ分(年間で35時間分の授業時数)増やす必要がありましたが、すでに「限度」(中教審答申)の週28コマはいっぱいだったため、短時間の「帯授業」の他、夏休みや土曜日の活用などで捻出することにしていました。
しかし、新型コロナの拡大を受けて2月27日、安倍首相が突如、3月2日から春休みまでの全国一斉臨時休校を要請。そのまま、4月からの緊急事態宣言に入ったため、学校は最長3カ月間の休校を余儀なくされました。小学校は増えた英語の時間どころか、これまでの授業時数を確保するだけでも大変な状況です。
もちろん、コロナ禍は政権の責任ではありません。しかし、「平時」に政権の意向で強力に推進した諸改革が、ターゲットイヤーに至るまでに次々とつまずき、おまけに五輪そのものが延期になったというのは、何とも皮肉なことです。
(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)
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