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デジタル教科書「本格導入」は「本格」といえる? 実は財源の保証なし

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

デジタル教科書「本格導入」の課題は?
デジタル教科書「本格導入」の課題は?

 文部科学省が2024年度からデジタル教科書を本格導入する方針を固めたことが8月末、報じられました。まずは小学5年~中学3年の英語で先行導入し、次は算数・数学だとしています。ただし「本格導入」といっても、一斉にデジタルが主流となるものではないようです。

現在は「実証事業」で1教科分を提供

「令和6年度を、デジタル教科書を本格的に導入する最初の契機として」――。中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の作業部会が8月25日に固めた中間報告では、こんな表現をしています。2024(令和6)年度に「本格導入」すると言うと、あたかも2024年度から一斉に紙からデジタルに切り替わるような印象を持つ向きも少なくないため、誤解を招かないよう慎重な言い回しに変えたものです。

 小中学生に1人1台の情報端末を整備する「GIGAスクール構想」がコロナ禍で一気に実現したことを受けて、文科省は、1教科分のデジタル教科書と関連教材を提供する実証事業を実施しています。2022年度は国公立のほぼ全校、私立も3分の1が参加しています。

 ただし「実証事業」とあるように、あくまで単年度の予算措置による「お試し」です。8月末に提出した2023年度概算要求では、作業部会の提言に基づき、英語を含めた2教科分を提供するよう求めています。しかし年末までの折衝で、どうなるかは不透明です。

 2024年度というのも、ちょうど新しい学習指導要領に基づく小学校の検定教科書(2020年度から4年間使用)が改定時期に当たることに合わせたものです。あくまで文科省の方針であり、国として財源の裏付けが保証されたものではありません。

無償の「紙」と併用が前提

 そもそも作業部会の中間報告では、当面の間、紙の教科書とデジタル教科書を併用するとしています。無償給与される紙の小中学校教科書とは別の予算で、デジタル教科書を整備しなければならないわけです。だからこそ「お試し」予算を恒常化することが必要ですが、今のところ2教科目まで拡大できる保証さえなく、いずれ有償となる可能性もあります。中間報告でも「段階的に導入すべき」との表現にとどめています。

 現在のデジタル教科書は、紙の教科書と同一の内容をデジタル化したものにとどめています。画像や音声を正式な教科書の内容とすると、検定作業が困難になるからです。中間報告でもデジタル教科書は「シンプルで軽いもの」にすべきだとしていますが、その理由として、通信負荷を挙げています。GIGAスクール構想では高校を含めた各校の高速ネットワーク環境も整備されましたが、多くの教科にデジタル教科書が導入されることを前提にした容量とは限りません。

かさむ費用負担に議論必要

 一方で中間報告は、シンプルで軽いデジタル教科書が、オンラインのデジタル教材や学習支援ソフトウエアと連携することで、学びの充実につながると位置付けています。裏を返せば、デジタル教科書だけでなく、教科書以外のデジタル教材やソフトも一体で整備しなければならないということです。しかし、デジタル教科書でさえ有償となると、さらに保護者の負担がかさみます。

 現在、紙の教科書の無償給与には、約460億円の予算がかかっています。一方、デジタル教科書導入の実証事業は約23億円です。今後、本気でデジタル教科書を「本格導入」するには、保護者の教育費負担や国の予算の在り方を含めた、本格的な議論も必要になります。

(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)

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渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。10月22日に「学習指導要領『次期改訂』をどうする―検証 教育課程改革―」(ジダイ社)を刊行。

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