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「教員給与見直し」は本当にできるか? 現場は精神疾患での休職、過去最多の危機

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

「教員給与の見直し」できる?
「教員給与の見直し」できる?

 文部科学省が2022年12月20日、「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」という長い名前の有識者会議を立ち上げました。これだけでは何が目的か分かりにくいですが、要するに「定額働かせ放題」とも批判される公立学校の教員給与や勤務の制度見直しを検討するものです。精神疾患で休職する教員が過去最多となるなど危機的な勤務実態が続く中、打開策はあるのでしょうか。

6年越しの改革論議

 公立学校の教員には、超過勤務手当(残業代)の代わりに、給料月額の4%分を「教職調整額」として支給することになっています。一方で時間外勤務を命じることができるのは、学校行事や職員会議、非常災害時など「超勤4項目」に限って歯止めをかけるという制度です。子どもという生身の人間に働き掛ける教員の職務は自発性・創造性を基本とするもので、必ずしも勤務時間では測れない、という考えからです。4%という支給率は、時間外勤務が月8時間程度だった1966年の勤務実態調査に基づくものです。

 2016年の勤務実態調査では、小学校で月59時間程度、中学校で月81時間程度という過酷な時間外勤務があることが明らかになりました。文科省は、単純に推計すれば教職調整額を30~40%程度に引き上げねばならず、国と地方で9000億円を超える追加費用が必要になるとの見通しを示しました。時間外割り増しを加えれば1兆円を超えるのは確実で、とても1省の手に負えるものではありません。

 当時は校長などが教員の出退勤時間すら把握しておらず、教員を増やすために財政当局を説得することさえできませんでした。そこで2019年1月の中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)答申では、まず「働き方改革」によって業務削減を進めた上で、改めて勤務実態調査を行ってから考えよう、ということになったわけです。

 2022年度勤務実態調査の結果は、2023年春にも速報値がまとまる見通しです。検討会は、その結果を受けて制度改革を議論することにしています。6年越しの改革論議というわけです。

背景には与党の動きも

 この時期に検討会をスタートさせたのは、与党への対応という側面もあるとみられます。自民党の萩生田光一政調会長(元文部科学相)は2022年11月、自らの主導で「令和の教育人材確保に関する特命委員会」を立ち上げ、委員長に就任しています。

 ただ、文科省検討会の初会合で示された「考えられる論点案」には(1)給与の在り方について(2)勤務制度の在り方について(3)学校における働き方改革について(4)その他――とあるだけです。与党の動き待ちという側面とともに、現段階では打開策の落としどころが何も見えていないことを示しているものとみられます。

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渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。10月22日に「学習指導要領『次期改訂』をどうする―検証 教育課程改革―」(ジダイ社)を刊行。

コメント

1件のコメント

  1. 防衛費は増税してでも数十兆円をわずか数週間の閣議決定で決めたが、将来の日本を背負う子供の教育に関わるお金はわずか1兆円にも満たない金額でも出し渋る。だから日本は子供を大切にしない国と言われるんだろう。ここまで3K、4K、5Kとも呼ばれる教職員が多少の給与改善をしたところで増える訳ない。数年前までは一部教職員の不祥事に端を発して教員免許を更新制にして自費、プライベートタイムを使って講習を受けさせていた。民間だったら考えられないブラック企業だ。子供なりたい職業の1位がユーチューバー、そして老後の資金は労働賃金ではなく投資で稼げとかいう国に未来はない。