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始まった教員勤務実態調査、「働き方改革」にとどまらない「国の思惑」とは?

教育を巡るさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

教員勤務実態調査、実施中
教員勤務実態調査、実施中

 6年ぶりとなる文部科学省の2022年度「教員勤務実態調査」が、8月から始まっています(2023年度中に結果を公表予定)。前回調査(2016年度)では、小学校教員の3割、中学校教員の6割が過労死ラインを超えて働いているという、過酷な状況が明らかになりました。今回の調査は、その後の「学校の働き方改革」の成否を問うものです。ただ「改革」は、それだけにはとどまらないようです。

予定されていた再検討

 調査では公立の小学校と中学校に加え、前回は対象外だった高校も含め、計2700校程度の回答が見込まれています。夏休み中の8月と、平均的な忙しさの時期である10月と11月の3カ月について、それぞれ1週間分の勤務状況を、業務内容ごとに細かく記録してもらいます。

 前回調査の段階で、既に過酷な実態だったわけですが、そもそも当時はタイムカードすら普及しておらず(出勤簿に判を押すのが一般的)、管理職が教員の勤務時間をほとんど把握していませんでした。というのも、時間外勤務(残業)を命じることができるのは校外実習や職員会議など「限定4項目」に限られ、それ以外は教員の「自発的行為」とみなされるため、把握する必要性が薄かったからです。なお、時間外勤務手当(残業代)を払う代わりに、1966年の勤務実態調査に基づいて給与月額の4%相当額を上乗せする「教職調整額」が支給されています。

 そこで、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)は2019年1月の答申で、まずは各校に勤務状況の把握を根付かせた上で、文科省が策定したガイドラインを基に、学校を挙げて働き方改革を進めてもらい、その上で「3年後」に勤務実態調査を行い、その結果に基づいて、改めて働き方改革を再検討しよう――ということにしました。ここでいう「3年後」が、今回に当たるわけです。

学習指導要領や「学校の役割」も含めて

 このように勤務実態調査を実施するところまでは、予定通りです。ただ、ここに来て、「改革」がそれ以上の意味を持つようになってきました。

 政府重要会議の一つである内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は6月、府省を超えた教育・人材育成の「政策パッケージ」を決定しました。その中で、(1)教育課程の在り方の見直し(2)学校の役割、教職員配置や勤務の在り方の見直し(3)子どもの状況に応じた多様な学びの場の確保(4)教育支出の在り方の検討――など多様な課題を一体で検討する方向性を打ち出しました。

議論の場となるのが、2月に発足した中教審の初等中等教育分科会「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」です。現在は、その下に設けたワーキンググループ(WG)で、デジタル教科書・教材の在り方などを検討しています。

 文科省の伯井美徳初等中等教育局長は、8月1日に行った「教育展望セミナー」(一般財団法人教育調査研究所主催)の講演で、特別部会の「本題」の議論を秋にも始めるとともに、(1)を巡る学習指導要領の改定を2027年にも行い、2030年度から小学校で全面実施に入りたい考えを示しました。

 学校現場にとっては、働き方改革と教員の勤務・給与の在り方だけでも、大きな関心事です。しかし国は、それにとどまらず、学校や授業の在り方そのものを問い直す大改革につなげようとしています。今後の動向を注視しながらも、望ましい改革は今後どうあるべきか、現場からも声を上げていく必要があるのではないでしょうか。

(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)

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渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。10月22日に「学習指導要領『次期改訂』をどうする―検証 教育課程改革―」(ジダイ社)を刊行。

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