「家族葬」のつもりで準備した斎場に大勢の参列者…当日慌てないために必要なこと
誰もが、いつかは関わるものでありながら、詳しく知る機会が少ない「葬祭」について、専門家が解説します。

筆者は葬祭業に長年携わっていますが、近年は「家族葬で静かに見送りたい」、あるいは「親族だけで葬儀を行いたい」というご遺族が増えておられます。亡くなられた本人が生前、そう希望していた場合もあり、そのご意向は最大限尊重するようにしています。しかし、意向に合わせて小さめの斎場を準備していたら、親族以外の参列者が続々と弔問に訪れて入りきれなくなってしまった…ということも起こり得ます。
そのような事態になって慌てないためには、どうすればよいのでしょうか。
「俺の葬式は親戚だけでいい」
話を分かりやすくするため、例として「Aさんのお父さんの葬式」とします。Aさんには遠方に住む弟と妹がおり、主にAさんが1人で高齢の両親の介護と看護をしていました。父親は病気で長期入院した後に亡くなり、ご遺体の安置場所は決まりました。
安置が無事に済んだら、葬式の打ち合わせです。どのくらいの人数が集まるのか把握して、どこで葬式をするかを決めなくてはなりません。Aさんに、どの範囲まで知らせるのかを聞くと「父は前から、『俺の葬式は親戚だけでいいから』と言っていました。親戚だけだと15人ぐらいです。あまり大きな所で少人数なのも寂しいので、ちょうどいい式場はありますか」と言いました。
そこで、筆者は、場所は住まいから少し離れるものの25人程度でちょうどいい小さな式場を紹介し、そこで葬式をすることになりました。一般にいう「家族葬」向けの小規模な葬儀に合った式場です。Aさんは、親族だけで静かにお父さんを見送るつもりでした、が…。
通夜を迎え、式の準備をしていると、開式まで1時間となった頃から何やら、喪服を着た人が続々といらっしゃいます。「A家にご参列ですか」と聞くと「そうです」と答えます。「ご親戚ですか」と聞くと「違います」。親族だけのはずなのに、近所の人が数人来たのかなと思いましたが、来られる人が止まらないのです。
親戚でない人の総数はざっと80人。少人数用の式場なので待合場所もなく、記帳をしていただき外で待っていてもらうことに。しかし、記帳用の帳面も大人数が参列予定の場合は2~3冊用意して同時に複数の人に書いてもらうのですが、親族だけの予定だったので、「帳面は1冊でいいですよ」と言われた通りに1冊で対応。どうしても列になってしまいます。
しかも、そんな日に限って、雨。建物の外にあふれてしまった人には申し訳ない状況で、喪主であるAさんは「お金がかかってもいいから、できる限り対応してあげてください」と言うのですが、場所はお金を払っても拡張できるものではありません。料理と返礼品は急きょ追加しましたが、会場の席数が限られており、多くの人が遠慮して、食事せずにお帰りになりました。なぜ、このようなことが起こったのでしょうか。
参列者のほとんどは、Aさんの妹さんの友人や仕事関係者でした。妹さんは仕事の関係で大阪に1人いたため、この葬儀が家族葬であることをしっかりと把握していなかったのです。友達に「うちのお父さん死んじゃってね。土曜日に葬儀なんだ」とLINEのやりとりで何気なく話してしまい、人望も仕事の信頼もあった妹さんの友人知人、仕事関係者に話が回って、大勢の参列者が集まった――ということなのです。
特に悪意があったわけではありません。同居ではないので連絡が密に取れず、家族葬だということを強く自覚していなかっただけで、来たとしてもここまで大勢集まってくれるとは思いも寄らなかっただけです。葬儀のトラブルは悪意によって起こるのではなく、ちょっとした意識の食い違いや善意の方向性の違いから起こり得ることがよく分かる事例です。
少し余裕を持った会場に
葬儀の日時についてどこまで知らせるかは、葬儀に集まってくれる人数を想定して決定します。知らせる範囲が広くなれば人数は増え、大きい施設が必要になります。
実際の葬儀の現場にいて「難しい」と感じるのは、安置が終わった次がこの「式場の決定」で、日程を決めるためには、まず場所を決めなくてはならない点です。「人数が多くなりそうだから変更」というのは、最初に訃報で場所も時間も告知しているので、現実的にできることではありません。そのため、焦りや混乱がある初期の段階であっても人数の概数を予測し、適切な広さの会場を設定する必要があるのです。
もし自信がないのなら、予想より大きめの会場にして、余裕を持っておくのが心配のない方法です。筆者も父の葬儀を行ったことがありますが、葬祭業に携わっていても、自分の家の葬儀に何人来るかは本当に自信が持てないもので、「葬儀屋さんがいてくれたら」と感じました。
そういうときに頼りになるのは、正しい手順です。経験豊富な葬儀社は、丼勘定にならない人数予測の方法を持っていますし、そうした方法があると少し安心できます。大切な家族を失った悲しみの中ではあるでしょうが、葬儀社の担当者とよく相談するとともに、余裕を持った会場を選ぶことを心掛ければ当日、慌てなくて済むと思います。
(佐藤葬祭社長 佐藤信顕)
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