ちまたの解説本は“劣化コピー” 「葬儀」準備で押さえるべき5つのポイント
誰もが、いつかは関わるものでありながら、詳しく知る機会が少ない「葬祭」について、専門家が解説します。
近年は「終活サイト」をはじめ、「葬儀の心得」を解説する書籍やサイトが多くありますが、その中で「葬儀の準備をする上で」という部分において、ずいぶん的外れなことが書いてあるものがあります。
理由は簡単です。その筆者が実際の葬儀を知らずに、「執筆」という目的のためだけに図書館などで本を借り、そこから、言葉尻だけを変えて執筆したような“劣化コピー”ともいえるものであることが多いからです。
では、実際に葬儀の準備をする上で大事なポイントを5つ挙げます。
(1)亡くなったらどこに帰るのか?
(2)どこまで知らせるのか?
(3)どこでお葬式をするのか?
(4)写真はどれにするのか? どこにあるのか?
(5)死亡者と届出人の本籍は?
それぞれについて、説明していきましょう。
(1)安置場所を決める。亡くなったらどこに帰るのか?
具体例として「Aさんのお父さんの葬式」とします。Aさんには弟と妹がいますが、2人が遠方のため、主に1人で高齢の両親の介護と看護をしていました。父親は病気の関係で長期入院。母親は認知症が進んでしまい、老人ホームに入居することになりました。
亡くなった後、遺族が最初に決めなくてはいけないのは「安置の場所」です。
父親が亡くなり、Aさんは葬儀を依頼しました。そこでまず、葬儀社に「お父さまはどちらにお連れいたしましょうか。ご自宅ですか、それとも弊社でお預かりいたしましょうか」と、亡くなった人をどこに帰すのかを聞かれます。
自宅に父親を連れて帰ってあげたいのはやまやまですが、このところ、病院から何度も危篤の呼び出しが続き、Aさんは肉体的にも精神的にも疲れ切っていました。実家も、入院やホームの入居準備で散らかり放題、片付ける余裕もありません。そこで、「自宅には帰れないので、どこか預かってくれるところでお願いします」と依頼することにしました。
葬儀社がお迎えに行くと、Aさんが病院の入り口で、電話越しに何やら言い合いをしています。大きな声なので、内容が聞こえてしまいました。
言い合いをしている相手はどうやら弟さんで、「兄貴はどうしておやじを家に帰してやらないんだ」と言っています。弟さんは遠方であまり介護に参加しておらず、散らかった家の状況やAさんの体力的な状況を把握しきれず、父親が亡くなったショックもあって、お兄さんに当たってしまっているようです。
葬儀のトラブルは、片方が“悪”だから起こるのではありません。Aさんたちのように、善意と善意のぶつかり合いで起こってしまいます。言い合いをしても、そこは兄弟のこと。20分後、弟さんが「状況も分からず悪かったよ」となり、無事にお父さんを安置場所にお連れすることができました。
葬儀で最初に起こるのは、安置する場所を決めることです。ご遺体を安らかに安置できないと何も始めることができません。理屈的には、その他の打ち合わせなどを先行させてもいいような気がしますが、やはり安置が終わらないと何もできないので、安置場所のことを考えておくのは、葬儀が無事に始まる上で非常に重要なのです。
(2)どこまで知らせる? (3)どこで葬式をする?
安置も無事に済み、打ち合わせです。まずは、どのくらいの人数が集まるのか把握して、どこで葬式をするかを決めなくてはなりません。
Aさんは生前の父親自身の意向もあって、親戚だけを呼ぶことにしました。親戚だけだと15人くらいですから、必然的に式場も「家族葬」向けの規模になります。
そこで、25人程度が入るとちょうどいい小さな式場に決めました。しかし当日、予想外に多くの参列者が集まり、会場からあふれてしまいました。なぜ、そのような事態が起きたのかは後日、改めて詳しく紹介したいと思いますが、ポイントは葬祭業者に相談して人数の予想をすることと、人数の見込みに自信がなければ、予想よりも大きめの会場にして余裕を持っておくことです。
ここまで決まれば、葬儀の6~7割は目鼻が付きます。生前にこまごまと自分の葬儀の計画を立てる人もいますが、実際には、本人の意志があっても、その内容を家族に報告し、異論がないかどうかを確認しなければなりません。
例えば、亡くなる本人は「質素なひつぎでいい」と言っていても、孫が「おじいちゃんはおしゃれだったのに、このひつぎはおじいちゃんらしくないよ」と言えば、そこでもう一度検討に入ることもあるでしょう。そのあたりは個々のこだわりと事情によるものだと思います。
(4)写真はどれにする? どこにある?
ある程度の年齢になってくると、本人の希望する遺影写真があることは多いです。しかし、亡くなる前には老人ホームに入ったり、転院が重なったりと非常に忙しくなり、物の場所が分からなくなりがちです。そこで起こるのは「あの写真、どこにあったかな?」という事態です。
遺影にする写真が決まっているのなら、どこにあるか家族が必ず確認しておきましょう。子どもが複数いる場合は、1人ずつに焼き増しして渡しておいてもらうのも一つの方法です。
(5)死亡者の本籍を調べておく
昔は運転免許証に本籍が記載されていましたが、現在では特別な機械を通さないと、運転免許証で確認することはできません。
そのため、死亡届を記載するときに「本人の本籍」、そして、もう一つ重要な「届出人になる人の本籍欄」を調べておくとよいでしょう。分からなくても、役所に提出すれば調べてもらえますし、もし間違っても後日訂正が可能です。分からなくても何とかなりますが、現場で見ている限り、分からないと「ちゃんと書けなかった」というストレスになるようなので、調べておいた方が安心です。
これら5つのポイントを、喪主を中心とした遺族が生前の本人の意向も踏まえた上で押さえておけば、あとは葬儀会社に任せることで、無事に葬儀が行えます。
(佐藤葬祭社長 佐藤信顕)
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