熱性けいれん 慌てるのは禁物、救急車を呼ぶタイミングは?【ぼくの小児クリニックにようこそ】
千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。
熱性けいれんは良性の病気
「今日はどうしましたか?」
「今日は元気なんですけど、実は昨日、高熱を出して、ひきつけを起こして救急車を呼んだんです」
「なるほど。それで診断は? 熱性けいれんと言われました?」
「ええ、そうなんです。でも、あまり詳しい説明がなくて…明日、かかりつけ医のところに行ってくださいって」
熱性けいれんという病気は、医師から見ると比較的頻度の高い良性の病気です。しかし、保護者が見ればこんな恐ろしい病気はないでしょう。初めて熱性けいれんを見ると、保護者は気が動転してしまうかもしれません。お子さんは白目をむき、口から泡を吹いて、両腕と両脚にぐっと力を入れて、その後にガクンガクンとけいれんします。
ただ、皆さんにぜひ知っておいてほしいのは、熱性けいれんは決して悪い病気ではないということです。脳には何のダメージも残りません。2回、3回、あるいはそれ以上、繰り返すお子さんはいくらでもいます。しかし、CT(コンピューター断層撮影)や脳波の検査は不要です(検査をやってはいけないという意味ではありません)。
自分の子どもの熱性けいれんを見て、パニックにならないというのは無理な話です。しかし、その熱性けいれんが2度目だったらどうでしょうか。少しは冷静に対応できるかもしれません。
あなたにできることは何でしょうか。最善のことは「慌てない」ことです。無理だと言われてしまうかもしれませんが、あなたには「慌てずに」やるべきことがたくさんあります。お子さんのために、それをぜひやってください。
一番にやるべきなのは、時計を見ること。つまり、けいれんの持続時間を把握することです。熱性けいれんは「何分間持続するか」が、引き続いてどう行動するかの最も重要な鍵になります。そして、衣服の胸元などを緩めてください。お子さんの体を揺すったり、強く呼びかけたりすることは、ほとんど何の効果もありません。お子さんは反応しませんから、むしろ、あなたの「慌てる」気持ちが強くなるだけです。
5分越えたら救急車呼ぶ準備を
普通の熱性けいれんは5分以内に治まります。その後はスヤスヤと気持ちよさそうに眠ったり、パッチリと目を開けたりするでしょう。しかし、けいれんが5分を越えたら、救急車を呼ぶことを考慮し、健康保険証と子ども医療費助成の受給券や医療証などを用意してください。固定電話はありますか。救急車を呼ぶには携帯電話よりも優れています。
そして、けいれんが10分に近づいたら救急車を呼んでください。なぜなら、あなたのお子さんは熱性けいれんではないかもしれないからです。脳炎・脳症と呼ばれる病気は、早く治療しないと脳に大きなダメージを残します。特に冬であれば、「インフルエンザ脳症」が脳症として最も頻度の高い病気です。
熱性けいれんの中には、症状が強く出るお子さんもいます。けいれんの最中に顔色が悪くなり、呼吸が弱くなることがあるのです。それでも、呼吸が完全に止まるということはありません。いえ、一瞬止まっても必ず呼吸は再開します。もし顔色が悪く、呼吸が止まりかかっていたら、お子さんの下あごの骨(いわゆる“えら”の部分)を軽く持ち上げ、お子さんが「匂いをかぐ」ような顔の向きにしてください。こんなときは、けいれんの持続時間に関係なく救急車を呼んだ方がいいと思います。
なお、念のために言っておきますと、これは熱のあるお子さんの話です。発熱していないお子さんが突然けいれんし始めたら、「てんかん」の可能性があります。てんかんは意外に多く、発症率は100人に1人といわれています。初めて発作が起きるのは、3歳以下が多いとされています。てんかんの経過はさまざまですが、発熱がなく、そして、5分たっても回復しなければ救急車を呼んでくださいね。
(小児外科医・作家 松永正訓)
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