オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

豪固有種ウォンバットが体調不良…動物も人間同様「うつ病」になる? サインや治療は?

オーストラリアで「ウォンバット」という動物が、触れ合いの減少で体調を崩したというニュースがありました。動物も「うつ病」になるのでしょうか。

オーストラリア固有種のウォンバット
オーストラリア固有種のウォンバット

 不眠や食欲不振、気分の落ち込みなど、心身にさまざまな不調が現れる「うつ病」。人間だけがなる病気だと思われがちですが、オーストラリアでは、自然保護区で飼われていた固有種の動物「ウォンバット」が、保護区の閉鎖によって来訪者との触れ合いがなくなったことで体調を崩し、体重が減少するなどの変調がみられたというニュースもあり、ネット上では「動物もうつ病になるのか」「どんな症状が出るんだろう」と驚きの声が上がっています。

 人間と同じように、動物もうつ病になることがあるのでしょうか。獣医師の増田国充さんに聞きました。

人間への依存が大きい犬や猫

Q.動物も、うつ病(心の病)になるのですか。

増田さん「動物も感情を持つ生き物なので、それらのバランスが取れなくなってしまうことがあります。犬や猫は元々、野生動物だったところから愛玩動物となり、人間の生活の中に入っていきました。人間との接触が日常となっているため、依存も大きい側面があります。そうした環境にいることで、人間による都合、あるいは自然災害などといった非日常の場面に遭遇すると、人間同様メンタルに大きな影響が及びます。

動物の場合、いわゆる人間と同じような『うつ』という言葉で表現するのが難しい事象が多いのですが、心的なバランス不調による問題行動が生じることは十分にあり得ます。行動学的にも、動物における『うつ』に相当する不調は存在すると考えてよいでしょう」

Q.動物のうつ病の原因や、現れる変化・症状とは。

増田さん「犬や猫は、言葉は発しませんが、表情や行動で変化を感じ取ることができます。行動の変化としては『元気がない』『食欲がない』が代表的です。

さらに細かく見ていくと、例えば『同じところを行ったり来たりする』『うろうろする』といった不安そうな動き、関心や意欲の低下、しょんぼりする行動ばかりでなく、逆に小さな刺激に過敏になったり、攻撃性が出たりすることもあります。ヒトと共通する部分が多く見られますが、とりわけ食欲が著しく低下すると衰弱を招くことがあるので要注意です」

Q.特に、うつ病を発症しやすい動物はいますか。

増田さん「犬と猫であれば、犬の方がより心的影響を受ける傾向にあると考えられます。犬は猫以上に、ヒトに対する依存の程度が大きいといえるからです。海外では、保護シェルターに収容された犬が、収容時に飼い主から離れた影響で、食欲の低下や元気の消失などの症状が現れるという報告もあります」

Q.ペットとして飼われている犬や猫の場合、うつ病になったと気付くためのサインや異変はありますか。

増田さん「目につきやすいのは、元気や食欲の変化だと思います。表情に活力がなくなることもあります。これらの変化は日常でも時折見られるものですが、これらが長期にわたって続くのは決してよいことではありません。家庭内で、何か大きな変化がなかったかどうか確認してみましょう。

転居や、家族・ペットの増減といった出来事、生活パターンの大きな変化は、愛犬・愛猫にとって大きな心的ストレスとなることがあります。思い当たることがあり、先述のような様子の変化が見られる場合は『うつ』のサインかもしれません」

Q.動物がうつ病になった場合、どのような治療を行うのでしょうか。

増田さん「犬や猫を『うつ病』と診断するためには、まず身体的な問題に由来する不調でないことを確認しておかなくてはなりません。原因が身体的な部分によるものでなく、心的影響が思い当たるようであれば、その環境改善を進めていきます。これまでの生活環境の変化に適応するのが難しくなったことで不調が表に出ているわけですから、可能であれば、今までの生活環境に近付けることを検討したいところです。

また、愛犬や愛猫に対してのフォローをしていきます。具体的には、『おうちの人と接する時間を多めに取る』『散歩や遊びを多く取り入れる』、そして『おうちの人と一緒に過ごし、楽しい時間を多くする』といったことで改善に導きます。それでも不調が続くようであれば、抗うつ剤を用いた治療を行うことがあります」

Q.ペットのうつ病を予防するために、飼い主が意識すべきことや、日常生活における注意点は何でしょうか。

増田さん「人間の生活において、突然変化せざるを得ないことがあるのは致し方ないと思います。一方で、共生している犬や猫にとっては、その変化を受け入れるしかない部分があります。変化が生じる時には、できるだけストレスがかからないように愛犬や愛猫と接する時間をつくってあげることが有効です。

また、『いつもより遊びたがらない』『表情がさえない』といった小さな変化にも気付くよう心掛けることが、助けになる場合があります。毛並みの様子、食欲、排せつの状況など、普段何気なく目にするあらゆる事柄がサインとなります。日頃の仕草や表情をよく観察しておきましょう」

(オトナンサー編集部)

増田国充(ますだ・くにみつ)

獣医師

北里大学卒業。愛知、静岡県内で勤務後、2007年にますだ動物クリニックを開院。一般診療のほか、専門診療科として鍼灸や漢方をはじめとした東洋医療を行っている。国際中獣医学院日本校事務局長兼中国本校認定講師、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員、日本ペット中医学研究会学術委員、AHIOアニマルハーブボール国際協会顧問、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師。ますだ動物クリニック(http://www.masuda-ac.jp)。

コメント